静岡県熱海市の温泉街で“異変”が生まれている。美少女キャラクターとの恋愛ゲーム「ラブプラス+(プラス)」と連携した今夏のキャンペーンから、ゲームファンとの交流が続いているのだ。熱海で何があったのか。【岡礼子】
「ラブプラス+」(コナミデジタルエンタテインメント)は、“彼女”である女子高生のキャラクターとの日常を疑似体験するゲーム。携帯用ゲーム機専用で、実際の季節や時間と連動している。約束のデート時間に遅刻すると“彼女”に「不安になっちゃうじゃん!」などと怒られる。
熱海への旅行は、友人から恋人に関係が進展すると行ける。ゲームには「お宮の松」「熱海城」「サンビーチ」「伊豆山神社」「初島」など名所が登場。「デートなので、熱海の名所をいろいろ紹介したかった」(コナミ)という。
7、8月のキャンペーン中は名所を実際に訪れ、多機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」で撮影すると、等身大のキャラクター映像と記念撮影できるサービスを展開。最新ITを駆使したこの仕掛けが人気を呼び、現地に足を運ぶファンが続出した。
当初、コナミからキャンペーンを持ちかけられた熱海市は戸惑い、同市観光協会は「人が来ますよ」と言われても半信半疑だった。だが、キャラクターをあしらった菓子類やお守り、手ぬぐいなどを買い込む客が次々に訪れ、みやげ物店は「とにかくお金を使ってくれる」とびっくり。同協会が「大々的に展開すればよかった」と悔やむほどだ。
恋人たちの宿泊先としてゲームに登場する実在の老舗旅館「大野屋」は、正面玄関にキャラクターが通う「十羽野高校御一行様」の看板を掲げた。ファンと分かると1人客でも、「お二人様ですね」と声をかけるなどサービスを徹底したためリピーターが続出。“彼女”を連れた男性の1人客だけでなく、グループやカップル、女性2人などさまざまだったが、「100%新しいお客様だった」(大野篤郎専務)。関連の宿泊客は約2カ月で400人を超え、キャンペーン後も愛好者から旅行企画の申し込みがある。大野屋では既に看板は外したが、「お二人様ですね」の声かけは続ける。
東京都の会社員、東野淳一さん(35)=仮名=は期間中、2度熱海に。初回は実際の彼女と“彼女”、2回目はゲーム仲間2人と“彼女”と市内を回った。普段、街中で携帯用ゲーム機を手にしていて冷たい視線を感じることが多いだけに「熱海の人たちはやさしくてうれしかった」と言う。
ファンは現在も簡易型ブログ「ツイッター」などで情報交換を続けている。初対面で意気投合することもあるため、熱海城の受付の女性は「1人で来て、帰る時はグループのように仲良くなっていた」と目を丸くする。
年間約300万人が宿泊する熱海市。宿泊者数は最盛期の昭和40年代の6割程度に減っており、市商店街連盟の岩本寛会長は「この夏はカミカゼが吹いたようだった。話題性も高く、熱海復活のきっかけになるかもしれない」と期待を寄せる。