26日投開票の静岡県知事選で、リニア中央新幹線の推進を掲げた、前浜松市長の鈴木康友氏(66)=立憲民主・国民民主推薦=が初当選した。リニアの工事に反対してきた川勝平太前知事が去ったことで、「国家プロジェクト」と言われるリニア計画は前に進むのか。選挙期間中には、リニアのトンネル工事が行われている岐阜県で井戸の水位低下が発覚し、関係者からは「問題解決には、まだ何年もの時間がかかる」との見方も出ている。 【写真特集】静岡県知事選 初当選した鈴木康友氏 ◇鈴木氏、リニアに前向き姿勢 「大井川の水、南アルプスの自然環境の保全、こうした問題をしっかりと解決した上でリニアを推進していく」。知事選告示前に開かれた討論会で、鈴木氏はリニアに前向きな姿勢を強調していた。 リニアの計画では、静岡県北部の南アルプスを8・9キロのトンネルが通る。そこを水源とする大井川の流量が下がることや、生態系への影響の懸念から、川勝氏は静岡工区の着工に反対してきた。 事業主体のJR東海は、大井川上流にあるダムの取水量を抑制し、川の流量を補う対策などを提案。鈴木氏は毎日新聞の候補者アンケートに「トンネル湧水(ゆうすい)の県外流出量と同量を大井川に戻す案であり、極めて現実的な方法と考える」と回答している。 また、国の有識者会議は2023年末にまとめた報告書で、生態系への影響をモニタリングし、適宜対策を講じて影響を最小化する手法を提示している。鈴木氏はアンケートで、この手法によって「(環境問題の)解決が可能になる」と高く評価。リニアの進捗(しんちょく)を「7、8合目」としていた。 ◇「まだ何年もかかる」 一方、県はこれまで自然環境の有識者らによる専門部会を設置し、水資源や生態系への影響など47項目の課題でJR東海と協議してきた。だが24年2月時点で、水資源の監視体制や生物の生育状況の調査など、まだ30項目が未解決との立場だ。 専門部会のある委員は毎日新聞の取材に対し「知事が代わったからといって、私たちの意見は変わらない。JR東海が十分な対策を示しておらず、工事開始にはまだ何年もかかるだろう」と話す。 総工費の増大や沿線で相次ぐ住民訴訟など課題は山積しており、新たな懸念も出ている。今回の選挙期間中には、リニアのトンネル工事が行われていた岐阜県瑞浪市で、井戸などの水位が低下していた問題が発覚し、JR東海は工事を中断した。県には事態の把握から2カ月以上報告がなく、古田肇知事は「残念で遺憾」と苦言を呈している。 この問題を受け、鈴木氏は「水と環境の問題はないがしろにできず、現実的な解決策を見いだしながら進めていく」と述べていた。リニアの品川―名古屋間の約86%はトンネルだ。各地で水を巡るトラブルが相次げば、静岡県内でも水資源への懸念が再度高まり、新知事の対応を左右する可能性がある。 JR東海の丹羽俊介社長は22日の定例記者会見で、新知事について「できる限り早くお伺いしたい。一日でも早い着工に向けて地域の皆様のご理解ご協力を得られるよう、真摯(しんし)に取り組みたい」と述べた。【原田啓之、最上和喜】