「ファイトイッパーツ!」と聞いて思い浮かべるものといえば、大正製薬の栄養ドリンク「リポビタンD」だろう。筋骨隆々の男性2人が崖の上などで叫び合い、力を合わせて困難を乗り越える、あの国民的テレビCMで商品もフレーズも有名になった。
1977年から「努力、友情、勝利」をテーマに勝野洋さん、宍戸開さん、ケイン・コスギさんらマッチョタレントが次々と出演。橋や滝など舞台は違えども、ストーリーの大筋はどれも同じで「偉大なるマンネリCM」とも評されてきた。
だが後述する過渡期を経て、今年9月13日から始まった新CMでは従来のイメージを一掃。爽やか路線へかじを切った。テーマも「Have a Dream」と、くたびれた中高年にはこそばゆい設定だ。
大正製薬の狙いはずばり、若年層の取り込みだ。リポDは62年に日本初の栄養ドリンクとして売り出され、ドリンク剤市場で不動のトップを守ってきた(同社調べ)。シリーズ展開し、累計販売本数は387億本。現在、大正製薬ホールディングスの売上高の約2割を占める。
しかし、競合するエナジードリンク市場の急速な拡大(2015年1350万ケース、飲料総研調べ)などの影響を受けて、リポD売り上げは近年、減少の一途をたどっていた。15年度下期にようやく下げ止まったものの、2000年度に過去最高797億円売り上げたのに対し、15年度は386億円と半減していた。
反転のイッパツとなるか
CMに話を戻そう。リポDのイメージは近年、マンネリと革新のはざまで揺れていた。
実は15年3月、77年から続いた「危機一髪」シリーズは終了。同4月から運動選手の活躍シーンが前半に登場し、ケイン・コスギさんが後半に絶叫するという、何とも中途半端な内容に切り替わっていた。「どうあるべきかずっと考えてきた」と同社社員は振り返る。
新CMでは、「ファイトイッパーツ!」の決めぜりふは残ったが、疲労回復を連想させる力強いシーンは完全になくなった。約40年かけて築いてきたイメージを覆す一大決心をしたわけだが、「何もしなければ新しい層は取り込めない」(同)と、社内から反対の声は特になかったという。
同社は限定ボトルの展開などで若年層、女性層を取り込み始めた結果として、「リポDの売り上げがようやく下げ止まった」と分析しており、新CMへの切り替えの決断にも作用したとみられる。
一方、飲料業界に詳しい専門家は下げ止まりについて、「競合のエナジードリンク市場から一部商品が撤退し、エナジードリンク市場自体も頭打ちの恩恵だ」と指摘している。新CMがV字回復への「イッパツ」となるか、注目が集まる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 土本匡孝)