リュック通勤派急増 ビジネス向け販売5年で5倍

ビシッと決めたスーツにリュックサック。東日本大震災の影響やスマートフォン普及で、歩きやすい、両手が使えるなどの長所がクローズアップされ、ビジネスリュックが人気を集めている。大手メーカーの販売個数は5年で5倍に。より機能的な商品開発が進む。これまで空いていた“働く背中”に脚光が当たっている。(上杉順子)

【写真】ビジネスバッグ売り場で存在感

平日お昼の神戸・三宮。連れ立って歩く会社員4人のうち、3人がリュックを背負っていた。その1人、神戸市北区の男性(28)は「総務なので良いかなと。最近は許される風潮を感じる。営業はまだ手提げが多いけど」と話す。

バッグメーカー大手のエース(東京)によると、2016年のリュックの販売個数は、11年比で489%を記録。現在、同社が展開するビジネスバッグ約400種のうち約2割がリュック機能を持つ。11年の東日本大震災で帰宅困難者があふれ、首都圏を中心に徒歩通勤が激増。急激に売れたため品数を増やした。

その後も、原発事故を受けたスーパークールビズで軽装化が進み、片手で操作しにくいスマホの普及も後押し。保育園の送迎に便利なことなど、女性の社会進出も影響しているという。

手応えは、兵庫県内の業者も感じている。県鞄(かばん)工業組合(豊岡市)によると、地域ブランド「豊岡鞄」、相手先ブランド生産(OEM)とも需要は増加。由利昇三郎副理事長は「よく『豊岡鞄のリュックがほしい』と言われる。対応を強化したい」と語る。

阪神・淡路大震災では「震災ルック」という言葉もあった。「スキー用リュックを愛用した。道路が陥没して危ない場所も多かったし、両手が空いて他の荷物も持てたので良かった」と、自営業の男性(47)=神戸市東灘区。「身なりに構う余裕がなかった直後だけでなく、その後もよく出た」と回顧する神戸元町商店街にある老舗「大上鞄店」の大上好子社長。「震災以降、カチッとした格好が減り、神戸のファッションも変わったように思う」

■仕事アイテム 収納に工夫

実際の売り場では、どんなビジネスリュックが人気なのか。東急ハンズ三宮店(神戸市)で聞いた。

以前は登山などのアウトドア用を使う人もいたが、今はメーカー各社がビジネスに特化した製品を出し、スーツに合う機能やデザインでしのぎを削る。

手提げや肩掛けの機能を兼ね備えた商品が支持を集めてきたが「最近は背負いやすさを追求したリュック専用も多い」と担当者。書類が折れにくい長方形、ペンやスマホ用のポケット付き、スーツケースに固定できるなどの工夫を凝らす。

情報漏えいを防ぐためノートパソコンの社外持ち出しを禁じる会社が増えたことや、タブレット端末が普及したことから、容量にこだわらず、軽くてコンパクトなタイプを選ぶ人も目立つという。

■背負う抵抗感薄れ

神戸芸術工科大・瀬能徹教授(ファッションマーケティング)の話 震災やスマホ普及で需要が拡大したことに加え、もともとカジュアルなかばんをビジネス寄りに改良した作り手側の努力もあり、支持されている。高級ブランドがリュックを発表するなどの世界的な流れから、大人がかばんを背負う抵抗感が薄れた。ビジネスシーンのカジュアル化は今後も進むだろう。

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