九州発祥の麺料理「長崎ちゃんぽん」「皿うどん」をメインメニューと する外食チェーン「長崎ちゃんぽんリンガーハット」が、かつての勢いを取り戻しつつある。消費増税の波を乗り越え、2015年1月までのリンガーハット既 存店売上高は7カ月連続で前年比プラス。値上げ効果もあり、グループのとんかつ専門店「浜勝」を含めて、今月末(2015年2月期)に締まるリンガーハッ トの連結決算は、2003年2月期以来となる実に12年ぶりの営業利益20億円(前期は17.7億円)台の達成が見えてきている(会社予想の売上高計画は 前期比2%増の375億円)。
長崎ちゃんぽんリンガーハッ ト、浜勝を併せて国内外に600店以上を展開するリンガーハットグループだが、サービスの質の低下もあり、ここ10年余りの間には4度に渡って最終赤字を 経験。24億円という大幅な最終赤字を出した2009年3月期には無配に転落するなど、屈辱を味わった時期もあった。そんな苦しいときを乗り越えた今の復 調を支えるのは、意外なブーム。国産野菜の人気だ。
1974年に長崎市で発祥したリンガーハットは、2009年から使用している野菜をすべて国産に切り替え、その方針を継続している。たとえば代表的なメニューである「野菜たっぷりちゃんぽん」は国産野菜を480グラムも使っている。
国産野菜を積極的に使うようになったのは、リンガーハットの米濵和英会長兼CEOが2006年から2年間に渡って日本フードサービス協会の会長職に就いて いる際、各地の野菜の試食でその美味しさに魅せられたのが発端だ。全国の契約農家と提携し、野菜の栽培段階から深く関わり、基本的に農薬や化学肥料を減ら した契約栽培の野菜のみを使用する体制としている。
原価は 当然高くなるが、「健康、安全、安心」がウリ。毎月、2日間、「野菜の日」を設けて、当日限定の野菜たっぷり特別メニューも提供するほどの力の入れようで ある。それがここへ来て、ジワジワと支持を集めている。海外産の野菜と比べて信頼がある国産を使っていることが、健康志向の強いユーザーに受け入れられて いる。女性客へのアピールにもなっているようだ。
野菜重視のメニューだけではない。「ちゃんぽん」は中華鍋を使用して野菜を炒め、スープと麺を合わせるという手法が必要。通常のラーメンと比べると、オペレーション的に非効率で、調理人によりレベルの差が出てしまい、仕上がりにばらつきが生じてしまう。
それを均一化したのがオール電化。中華鍋も廃止し、野菜を均一に火を通すことができる自動回転鍋や移動式の調理器、自動麺解凍機を駆使し、誰でも一定の味 を出せ、しかも2分で提供することを可能にしている。それまでは半年かかっていた社員教育も、1週間という超短期完了が可能となっている。
もっともリンガーハットの営業利益率は5%前後。「中華食堂日高屋」を運営し、2ケタ以上をたたき出す「ハイデイ日高」などと比べると、外食業界内では決 して高くはない。従業員の平均年収が701万円(平均年齢43.4歳)と相対的に給与水準が高いという事情はあるものの、ますます経営の効率化が求められ るところでもある。
リンガーハットの例は象徴的だが、外食 業界での野菜人気は、さまざまな場面で垣間見ることができる。大阪市東住吉区の「優心」。もともと食材会社に勤務していた大原栄二さんが食品と健康の結び つきを痛感し、「体にやさしい」をコンセプトにしたうどん店を2014年3月に立ち上げた。
野菜ソムリエの資格を有するため、「5種野菜の焼き天ぷらうどん」など随所に野菜を採りいれる工夫がある。さらにうどんメニューをオーダーすれば、レタス や玉ねぎ、四種野菜の酢の物をはじめ、各種野菜、自家製豆腐などが食べ放題の「サラダバイキング」が無料で味わえるほどのこだわりぶりで、人気を博してい る。
讃岐うどんで知られる香川県は「うどん県」を標榜する ほど、うどんを消費する。一方、これには弱点もある。香川県の人口10万人当たりの糖尿病受療率(患者数)は、2011年に308人。全国平均で185人 なので、実に約1.6倍にも上り、全国ワースト2位(2008年はワースト1位)という不名誉な記録がある。端的には言えないが、炭水化物が主体のうどん は体内で糖分へと変わることが要因の一つなのかもしれない。
そこで香川県が主体となってWebサイト「かがわ糖尿病予防ナビ」を開設し、糖尿病の基礎知識から県の現状、取組みを紹介している。2011年県民健康・ 栄養調査では野菜の摂取量は、一日あたり260gと目標量の350gを大きく下回り、糖尿病が疑われる人では野菜の摂取量が少ないという結果や、めん類を 食べた人の野菜摂取量は240g、食べていない人では267gと差があったことから、うどん店での野菜摂取量アップを目指して「ヘルシーうどん店マップ」 を作成し配布している。
昨今の飲食店は、過去にあった「ボリューム重視」の時代から「健康志向」へとシフトしている。「安心・安全」というキーワードとともに、外食業界における新たなトレンドの萌芽を感じる。