リンガーハット「冷凍ちゃんぽんで挽回」の事情

冷凍の長崎ちゃんぽんは新たな収益柱になるのか――。

長崎ちゃんぽん店を主力業態とするリンガーハットが冷凍食品の製造・販売の強化に動き出した。2021年2月には静岡県の富士小山工場で製造ラインを増設、冷凍食品の生産能力を倍増させた。

2021年1月には第三者割当による新株予約権を発行し、この時点の予定額として23.5億円を調達する計画を発表。このうち約10億円を使い、京都工場などで製造ラインを新増設し、その一部を冷凍食品専用の設備投資に充てる。

巣ごもり消費を追い風に販売好調

冷凍食品などの外販事業を統括するリンガーハットの子会社、リンガーフーズの鎌田武紀社長は「これまで冷凍食品の製造を担っていた佐賀工場だけでは、24時間稼働しても1日に約1万食分しか生産できない。事業拡大のためには生産能力の増強が不可欠だった。OEM(他社工場への自社ブランドの製造委託)も検討したが自社製造の3倍のコストがかかってしまう」と語る。

外販事業の売上高は2020年2月期で12.6億円と、リンガーハット全体の売上高の1割にも満たないが、巣ごもり消費が追い風となって好調に伸びている。2020年3~11月期の売上高は前年同期比36.7%増の12.6億円。とりわけ、EC(ネット通販)経由での販売が好調で、その販売額は前年度比で約7割増加した。

鎌田社長も「緊急事態宣言(が発令された2020年4月7日)の翌日には注文の電話が殺到した」と振り返る。足元でも堅調に販売数を伸ばしており、1カ月におよそ45万~50万食ほどを販売しているという。

現在、外販している冷凍食品は長崎ちゃんぽんと皿うどん、餃子、炒飯の4メニューだ。首都圏や九州での販売が多く、40~60代がリピーター客になっている。2013年ごろに生協から長崎ちゃんぽんを供給してほしいという要請があり、それを機に外販用の冷凍食品の製造も始めた。

4メニューのうち、販売額の6割を占めるのが長崎ちゃんぽん。皿うどんも3割を占める。キャベツやタマネギなどの国産野菜に加え、エビ、豚肉、かまぼこなど9種類の具材が封入されている。

鎌田社長は「野菜パックは冷凍食品の原価高の要因となっているが、食べやすいように野菜を手作業で処理するなど、店舗で提供するメニューと遜色ない品質にこだわっている」と胸を張る。

苦戦続きの既存店売上高

ただ、リンガーハットの業績はコロナ禍が直撃する前から苦戦続きだ。2019年7月以降、既存店売上高は20カ月連続で前年割れしている。

2018年8月に野菜の価格高騰などを理由に、看板メニューである長崎ちゃんぽんなど13品目で平均3.3%の値上げを実施した。その結果、客数が減少。2019年8月から低価格のランチメニューを拡充したが、それに伴って客単価も低下し、客足が戻っても既存店売上高は前年実績を下回り続けた。

ショッピングセンターなどのフードコートへの出店強化戦略も、コロナ禍で裏目に出た。2020年11月末時点での国内店舗数は745店舗(FC店含む)だが、そのうちフードコート内店舗が54.7%を占める。

ロードサイド店と比べて設備投資額が抑えられるうえ、顧客に料理を配膳する人員が不要なため人件費を抑えられることから、2008年2月期から出店を強化してきた。

だが、リンガーハットの佐々野諸延社長は2020年10月の決算説明会で、「これまでショッピングセンター内の店舗が収益源だったが、コロナ禍で(顧客の消費行動が)郊外のロードサイド店にシフトしてきた」と肩を落とす。


リンガーハットが強化中の冷凍食品。長崎ちゃんぽんと皿うどんで販売額の9割を占める。右手前の袋が野菜パック(記者撮影)

主力の店内飲食事業が不振なだけに、それに代わる収益源の確保が急務となっており、そこで目をつけたのが、冷凍食品の外販事業だったわけだ。

経営管理部門を担当するリンガーハットの小田昌広常務取締役は「当面の間は既存店の立て直しに集中する。その一方で、デリバリーや冷凍食品などの販売額を伸ばして、収益源を多角化しないといけない」と話す。

「値下げは絶対にしない」

リンガーハットの冷凍食品「長崎ちゃんぽん」の価格は1人前当たり560円(楽天市場での販売価格、税込)だ。競合商品である日本水産の「わが家の麺自慢ちゃんぽん」(同、税込460円)と比べても2割ほど高い。

「価格面では大手の冷凍食品メーカーに敵わない。品質と独自性を磨くことで差別化する。販路の拡大が喫緊の課題だが、(外販事業の)利益率10%超えは死守する。販売数を伸ばすために食品スーパーなどの量販店に対して販促(販売奨励金)を出したり、値下げをしたりは絶対にしない」(鎌田社長)との方針で、収益柱になるのには時間がかかりそうだ。

新株予約権の発行と同時に、資本性劣後ローンを50億円発行して財務危機をとりあえず乗り切った形のリンガーハット。顧客ニーズに合わせて収益源を多角化できるのか。リンガーハットに残された時間はそれほど多くない。

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