ルネサス エレクトロニクスは、IoT機器の電池の使用や交換が完全に不要になるエナジーハーベスト(環境発電)専用の組み込みコントローラを開発し、ベータ顧客向けに提供を開始したと発表した。ルネサス独自の「SOTB(Silicon On Thin Buried Oxide)」プロセス技術を採用することにより、従来のマイコンでは実現不可能だった、低アクティブ電流と低スタンバイ電流の両立を実現した。
SOTBは、ウェハ基板上の薄いシリコン層の下に極めて薄い絶縁層(BOX: Buried Oxide)を形成。シリコン層に不純物を混入しないことにより低電圧で安定した動作を可能にし、電力効率良く演算性能を発揮できる。
一方、スタンバイ時はBOX層下のシリコン基板電位を制御(バックバイアス制御)することにより、リーク電流を削減し、待機電力を抑える。これにより、従来はトレードオフの関係にあった、アクティブ時の消費電力とスタンバイ時の消費電力を、どちらも極限まで減らすことができる。
SOTB技術を採用した新コントローラは、極低電流で動作するため、電源を供給するための電池をまったく使用しないで、光や振動、流量などの微量の環境発電を使用したエネジーハーベストなIoT機器を開発することが可能となる。これにより、スマートウォッチ、ウエアラブル機器、フィットネスウェアや靴など、民生からヘルスケア、工場や住宅、農業、公共インフラ分野など幅広い応用分野に、電池のメンテナンスが不要という新たな市場を創出する。
ルネサスとしてSOTBプロセス技術を初めて採用した組み込みコントローラ「R7F0E」は、CPUには32ビットArm Cortex-M0+を使用。最大動作周波数は64MHzのため、センサデータ等をエンドポイントで高速に処理したり、複雑な解析や制御機能を実現できる。アクティブ電流は20μA/MHz、ディープスタンバイ電流は150nAと、従来の低電力マイコンの約10分の1の消費電力となっている。
また、「R7F0E」は、エナジーハーベスト機器を、効率的に、コスト効率も良く開発できるよう、独自に設定できるエナジーハーベストコントローラ(EHC)を内蔵。そのため、外付け部品を削減可能となり、シンプルなシステム構成により堅牢性も高まる。太陽光や振動、圧電素子などのさまざまな種類の発電素子に、電圧安定化回路なしで直接接続できるため、エナジーハーベストシステムで問題となる起動時の突入電流に起因する誤動作を防ぎ、さらに堅牢なシステム設計が可能となっている。加えて、EHCは、コンデンサや二次電池のような外付けの蓄電デバイスを管理する機能も備える。
一方、「R7F0E」が極めて低電力であるという特長を活かして、エナジーハーベスト以外にも、究極的に低消費電力な機器を設計したいというエンジニアのニーズにも対応できる。
なお、サンプルは2019年7月から一般ユーザーに順次提供を開始し、同年10月より量産を開始する予定。
ルネサスは今後、同製品を核に、発電素子や応用アプリケーション別にエナジーハーベスト向けソリューションの拡充を図り、今後 各アプリケーションに合わせた仕様を盛り込んで 製品展開を図る方針だという。