レビ視聴率が4月以降急減 視聴者のゴールデンタイム離れ進む

「4月以降、PUTが目に見えて下がっている」「ゴールデンウィークが明けてさらにひどい」この4月から5月、6月にかけて業界内でこんな噂が飛び交っていた。

元々、テレビの視聴率はじわじわ下がっていた。それが今年度になりさらに急下降しているらしいのだ。ちなみにPUTとはPersons Using Televisionの略で総個人視聴率のこと。テレビ放送を視聴する人の率で、日本人がどれだけテレビをリアルタイムで見ているかの指標だ。

そこで、インテージ社に視聴データを出してもらった。同社が持つ調査パネルi-SSPで、2021年6月から2022年5月までの毎月のテレビ放送接触率の平均値を性年齢別で算出してもらったのだ。ただし、視聴率はビデオリサーチ社が独自の調査対象を元に算出するものであり、インテージ社はまったく別の調査対象を計測している。以下のデータがそのまま「視聴率」と同じではないことに注意してほしい。

多くの層が接触率ダウン。特にゴールデンタイム。

そのインテージのデータで、各層で昨年6月と今年5月を比べると驚くほど下がっていた。

インテージ社 i-SSPより
インテージ社 i-SSPより

まず一番顕著だったのが女性・20代だ。左の目盛りが接触率、下は朝5時から始まる時間で、24時以降は25時、26時と表記している。青い線が2021年6月、オレンジが2022年5月の平均値だ。(右側に2021/6/1と日付が表示されているが実際にはその月の平均)これを見ると、朝から夜までほぼ満遍なく数値が下がっているのがわかる。ゴールデンタイムでは最高値が9%を超えていたのが7%前後に、2%以上落ちていた。ここだけ見ると「若者のテレビ離れが加速した」ように思える。

だが他の区分を見ると若者に限らないことがわかる。

インテージ社 i-SSPより
インテージ社 i-SSPより

女性40代でも朝の時間、そして20時から22時くらいまでのゴールデンタイムが下がっていた。20代とは目盛りが違うので単純比較しにくいが、21時では18%以上だったのが16%程度に下がっていて、やはり2%前後落ちているのだ。

女性ではっきり差が出ていたのがこの2つの層で、10代・30代・50代・60代ではそれほど下がってはいなかった。

ところが男性はほとんどの年代で下がっていて、20代だけなぜか変化があまりなかった。男性・40代のグラフを見てもらおう。

インテージ社 i-SSPより
インテージ社 i-SSPより

男性の場合、ゴールデンタイムだけ大きく下がっているのが特徴で、上の図の40代では他の時間帯はほとんど変化がない。19時ではさほどではないが20時から、21時、22時ではあからさまに下がっている。その差はだいたい2%程度で、つまり男性の場合20代を除いて10代および30代以上のどの年代も2%程度ゴールデンタイムが下がっているのだ。

3月までは下がらず、4月5月と顕著にダウン

ではこの変化はいつからのものか。普通に考えると、毎月少しずつ下がったと予想してしまう。だがいくつかの月をピックアップしてみると、意外なことがわかった。変化の大きい女性・20代でも昨年6月、10月、そして今年3月までは必ずしも減少していないのだ。21時はほとんど同じ。その後は上がっていたりもする。

インテージ社 i-SSPより
インテージ社 i-SSPより

3月まで下がってはいなかったのが、4月にカクンと減り、5月にさらにもう一段階下がっていた。下がっている層はどこも同じ傾向だった。

ではこうした人たちは代わりにどうしているのか。容易に考えられるのが動画配信サービスだ。そこで同じインテージのデータでスマホアプリでの動画配信視聴の数字を出してもらった。

インテージ社 i-SSPより
インテージ社 i-SSPより

女性20代のYouTubeのデータを見ると、21時で昨年6月の5.2%から今年5月の6.5%に1.3%も増えている。Netflixをはじめとする有料の動画配信サービスはここまで数値が高くはないが、微量ずつ増えている。テレビ放送から動画配信に移行したと考えてよさそうだ。

テレビは自分で相手を狭めている

ここまでで、女性の一部、男性の多くで主にゴールデンタイムのテレビ視聴が減少し、YouTubeはじめ動画配信に流れたことがわかってきた。放送から配信へのシフトはコロナ禍以降顕著になっていたが、4月5月で急減したのはなぜだろう。以下は、私の推測を述べる。

この4月はどの局も大きく改編を行った。局により呼び方は違うが、コア層つまり49歳以下の若者やファミリー層に向けた番組編成になった。その結果、コア層ではない50歳以上の男性がゴールデンタイムの番組を見なくなったのは当然かもしれない。だがそれだけでなく、ターゲットであるはずの女性20代や男女40代も減ってしまった。

同じような番組ばかりになってしまったからだと私は考える。ゴールデンタイムにテレビをつけると、クイズやゲームのような誰にでも楽しめる番組ばかり放送されている。同じようなタレントばかりが出演し、こっちの番組ではクイズを出題していたタレントが、別の番組では回答者として答えている。これを各局が毎晩毎晩放送しているのだ。嫌になる人が出てくるのも当然ではないだろうか。

ターゲットを絞りその人たちが好む最大公約数ですべての番組を作ると、それが好きな人は見てくれるだろうが、さほど好きじゃない人は「またかよ」となってしまう。最大公約数ではすべてをカバーできないのに、どの局も毎日最大公約数を狙うので似たような番組だらけになり視聴者が離れたのではないか。

でもターゲットを絞らないと、とテレビ局の人は言うだろう。だがこのターゲティングもずいぶんざっくりしている。コア層の数字取れてますと言われても、スポンサーからするともっと絞った層にCMを届けたい。コア層の戦略は実はこの10数年日本テレビだけが取っていたもので、全局が似たような戦略を取った今、逆に価値を失いかけているのだと思う。

テレビはその成長期、もっと多様性を求めていた。より新しい番組を企画し続けてきた。今のテレビ番組は、見たことある要素を組み合わせているようにしか思えない。テレビは多様性を取り戻すべきではないか。そうしないと、改編するたびにYouTubeに視聴を奪われかねない。

コア層など性年齢別ではなく、もっと狭い特定の趣味嗜好の人々に向けた番組が、意外な面白さで広い層に見られる可能性だってある。ヒットとは実はそうやって生まれるものだ。

実は今、YouTubeをテレビで家族一緒に見る傾向も出てきているそうだ。これからの家族団欒はテレビから動画配信に移行するのかもしれない。

境治

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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