ロス少ない「直流給電」住宅普及目指す NTT

 NTTグループが、ICT(情報通信技術)機器に直流の電力を供給する「直流給電」の普及に乗り出している。直流は交流と比べ電力のロスを低減でき、省エネ化につながるのが利点。ここ数年、サーバーなどの機器が集中する自社のデータセンターを中心に直流給電の導入を図ってきたが、昨年11月には電機メーカーや大学などと共同で、一般家庭にも応用する技術開発にも踏み出した。
 電気の流れ方には直流と交流の2種類がある。直流は、電気が導線の中を流れるときに電流や電圧が変化しない。一方で交流は、電流や電圧が周期的に変化しており、同じリズムで電気が向きを交互に変えながら流れる。直流給電だと、最終的に機器に電力が届くまでの変換回数が少なくて済むため、電力損失を抑えられる。
 ◆60年の実績
 電話交換機は直流で作動するため、NTTグループは約60年にわたる直流給電のノウハウを持つ。これを一般に普及させるために、2008年度から取り組んでいるのが「高電圧直流給電システム」だ。
 従来、自社のデータセンターなどではサーバーなどへの電力供給を交流で行っていたが、これを400ボルト程度の高電圧の直流に切り替えた。これによって電流が小さくなり、給電ケーブルを細くできるなどのメリットを確認。交流給電の場合と比べ、全体で14~17%の消費電力削減効果が見込めるという。
 ネットワークを通じてソフトウエアを利用するクラウドコンピューティングの拡大などによって、国内のデータセンターの消費電力量は、12年度には07年度比で倍増近い100億キロワット時に達するとの予測もある。直流給電を利用すれば省エネ効果が図れる。
 NTTはデータセンターなどの事業用だけでなく、一般住宅にも直流給電を拡大させる取り組みも始めた。昨年11月、住宅内の直流給電システムの開発を目指した組織「宅内直流給電アライアンス」を設立した。参加しているのはNTTグループ各社のほか、電機・電子部品メーカーや大学など計41団体。1カ月半に1回のペースで全体会合を開き、議論を積み重ねている。
 住宅の場合、従来の給電システムでは交流から直流、または直流から交流と電力が何度も変換され、そのたびに電力が約1割ずつロスしていくのが課題だった。
 ◆世界標準化も視野に
 これに対し、交流の電力を住宅内の整流器で1回変換するだけの直流給電システムを導入すれば、電力損失を抑えられるほか、直流の電力を生む住宅用の太陽電池や燃料電池の電力も効率よく利用できる。この結果、交流給電に比べて電力供給効率は1割以上アップし、二酸化炭素も同程度削減できるという。
 アライアンスでは、電力をためる蓄電池と、交流から直流へと変換する装置であるコンバーターを一体化させた「宅内直流給電ユニット」の試作も進んでいる。
 ただ、これらの機器はNTTが自ら開発・製造するわけではなく「(参加している)メーカー主導でモノづくりをする」(NTT環境エネルギー研究所の野崎洋介・主幹研究員)という。NTTではアライアンスを通じて住宅内の直流給電システムを確立し、この技術を「日本発の標準技術として確立する」とし、世界標準化も視野に入れている。
 地球温暖化対策の観点からも、増え続けるデータセンターや一般家庭の電力消費の削減が課題となる中で、直流給電の早期の拡大が待たれる。(森田晶宏)

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