岩手、宮城両県の三陸で今年採れたワカメやコンブの価格が高騰し、主に地元産を原料にする東日本大震災被災地の加工業者が悲鳴を上げている。国内流通の大半を占める輸入物の不作を引き金に需要が高まった三陸産は品薄感が広がり、原料価格は昨年の約5割高。買い付け時の高値の影響が尾を引き続ける。
「高騰分をそのまま販売価格に転嫁するのは難しい。うまくやれる業者はほとんどいない」
及新(宮城県南三陸町)の及川孝浩社長(55)の表情は厳しい。取引先の理解を得て、一定の値上げに応じてもらったが、従来価格との差は自社で負担せざるを得なかった。
津波で加工場が流され、2012年に再建した。ワカメ、コンブの加工品が売上高の6割を占める。
「震災を挟んでつなぎ留め、戻ってきてくれた取引先も高値だと逃げられる恐れがある」と懸念する。
収穫期はワカメが1~4月、コンブは4~6月。加工業者は収穫期に原料を買い付けて保存し、通年で加工商品を製造する。原料価格は年間を通して影響を及ぼす。
三陸水産(岩手県普代村)の赤坂優社長(67)は「小売価格が上がれば売れなくなり、高い原料の在庫を抱える。通年で商品を出荷しなければ、今度は取引停止の恐れがある」と苦しい胸の内を明かす。
<養殖施設に被害>
全国漁業協同組合連合会東北事業所(仙台市)によると、16年(6月時点)のワカメ生産量は岩手1万4429トン(前年比8%減)、宮城9017トン(7%減)。1月の低気圧による養殖施設の被害が影響した。
国内最大のワカメ産地、三陸の減産は1割弱だったが、主力の中国産ワカメが不作で輸入量が大幅減。三陸産の価格は入札のたびに「尻上がり」(及川社長)となり、平均単価は1キロ当たり239円と昨年より59%上昇した。
コンブは塩蔵で岩手(長切り1等品)が310トン(59%減)、宮城(全等級)は47トン(65%減)。不作による減産幅が大きく、価格は1.5倍にはね上がった。
<後継者の確保を>
三陸産の品薄感が強まった背景として、震災による生産者減少の指摘もある。
農林水産省の漁業センサスで東北のワカメとコンブの養殖漁業者数(経営体)は13年が1453で、20年前(93年、2900)から半減した。特に08年からの5年間は500減。震災が高齢化と過疎化が進む漁業者の減少に拍車を掛ける。
赤坂社長は「生産者は後継者が少なく、年々減ってきた。養殖施設の一部は遊休化している。原料の価格安定は生産側の経営も含めて考えなければならない」と強調。後継者確保など産地全体で取り組む必要性を訴える。