ワクチン会場を襲った「神真都Q」 コアな支持者がコミューン化する可能性も

アメリカで生まれた陰謀論が、日本で過激な反ワクチン集団と化し、ついに警察沙汰に。いったい何が起きているのか。近刊『「トランプ信者」潜入一年』が話題を呼ぶジャーナリスト・横田増生氏が、日本版「Qアノン」と言われる神真都(やまと)Qの実態に迫った。(文中敬称略)【前後編の後編。前編から読む】

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 神真都Qのメンバーは、トランプについてこう話す。

「私は2020年のアメリカの大統領選挙を追っていくうちに、大規模な不正選挙が行なわれていることを確信しました。選挙当日は、トランプさんが各州の開票でリードしていたのに、翌朝起きてみるとバイデンが逆転しました。一晩の間に、“バイデン・ジャンプ”と呼ばれる不正が行なわれました。

 ミシガン州では集計機のドミニオンによる票の書き換えがあり、ペンシルベニア州では投票所の内部が見えないように細工され、郵便投票を悪用して亡くなった人が投票した例もありました。それに、今のバイデンは、以前のバイデンとは全く別人が入れ替わっているんですよ。目の色や利き手も違っていますし、署名も以前とは全然違います。同一人物でそんなことがあり得ますか」

 まともに取り合える話には思えないが、なぜ神真都Qのメンバーは、他国の政治家であるトランプにシンパシーを覚えるのだろう。その動きを当初から追いかけてきたライターの雨宮純はこう説明する。

「僕は神真都Qを陰謀論集団ととらえているのですが、陰謀論者たちには、メインストリームのメディアが貶めるような人を持ち上げようとする力が働きます。2021年1月に、トランプの支持者たちが連邦議事堂を襲撃して以来、トランプを肯定的に取り上げるメディアはなくなりました。だからこそ、陰謀論者には魅力的に映るのです。だれも知らないトランプの本当の姿や実力を知っているのは私たちだけだという倒錯した気持ちに酔ってしまうのです。

 そのトランプの指導によって、コロナは存在しなかったということが証明され、世の中が180度引っくり返るんだ、と信じることに喜びを見出すのです。逆説的に言えば、もしトランプが大統領選挙で勝っていれば、神真都Qが祀り上げることもなかったでしょう」

 神真都Qを率いているのがイチベイこと倉岡宏行(43)だ。10年以上前はVシネマに出演していた二世俳優だった。メンバーたちが現行犯逮捕された約2週間後、リーダー格のイチベイもクリニックへの建造物侵入の罪で逮捕されている。

「やや日刊カルト新聞」を発行する藤倉善郎は、他の4人が現行犯逮捕される数日前、渋谷でデモをするイチベイを取材して、その動画を自身のツイッターに上げている。以下は藤倉とイチベイとのやり取り。

──東京ドーム(のワクチン会場)を襲撃しましたよね。

「東京ドームでは警察が逮捕されました」

──誰が(警察を)逮捕したんですか。

「軍です。軍に(警察が)捕まっちゃいました。ちょっと警察が態度悪かったもので。あと、朝日新聞もトップ7人が逮捕されました。(朝日新聞が)取材に来たんですけれど、こっちの悪口を言ってきたので」

──(神真都Qの)悪口言ったら逮捕されるんですか。

「だってQですもん」

 藤倉は、イチベイが気さくに取材に応じてくれたとしながら、説明が十分ではなく、相手に分かってもらおうという気持ちが欠落しているように感じたと語る。

「話の前提には、神真都Qには、Q軍という独自の軍隊がついており、それが神真都Qに反対する警察や朝日新聞の幹部を逮捕したという筋書きがある。それを知っていないと、何を言っているか分からないような話を平気でするんです」

 もちろん、神真都Qの軍隊など存在するわけもなく、警察や朝日新聞幹部の逮捕も、まったくのウソでしかない。そんな簡単に分かるウソを、神真都Qのメンバーは信じるのだろうか。

「イチベイなどの幹部に対する批判はご法度です。オープンチャットで、イチベイはおかしいんじゃないか、とでも書こうものなら、おそらくディープ・ステイトの“工作員”とみなされ強制退室させられるようになっています。内部は相互批判などが働きにくい構造になっています」(藤倉)

 神真都Qのメンバーへの締め付けは、私が取材している時にも感じた。ツイッターで見つけたメンバーに私が取材を申し込むと、判で押したように「本部からの指示で取材は全てお断わりさせて頂いております」という答えが返ってきた。

コミューン化のその先

 そのイチベイにQアノンのことを入れ知恵したのは、ユーチューブのコンサルタントで、自称ハーフの40歳の男だ。神真都Qの創設メンバーの1人だ。

 この男は、もともと都市伝説系のユーチューバーだったが、動画の再生回数が伸びずにいた。そこで2020年後半のアメリカ大統領選挙前後にネット上ではやったQアノンの話を流し始めると、再生回数がそれまでの何倍にも増えた。それに味をしめQアノン関連の動画を流すようになる。その男に、ユーチューブ運営に関するコンサルティングを受けていたのがイチベイだった。当時を知る人物はこう語る。

「その男とイチベイが意気投合してそれぞれのチャンネルでQアノンについて語るようになりました。けれどQアノンの動画が、連邦議事堂襲撃以降、ユーチューブの規約に引っかかるようになった。そこに新たなネタとして反ワクチンの動画を流すと、また再生回数が増えたのです。

 イチベイやコンサルの男に何かの思想があったということではなく、単に再生回数を増やしていく途中に、Qアノンや反ワクチンという、ネット上で受けのいい話を取り入れていったにすぎない。要するに、動画がバズれば何だってよかったんです」

 神真都Qを法律的に支える人物もいる。弁護士の木原功仁哉だ。自身は神真都Qのメンバーではないが、国を相手取って新型コロナのワクチンの特例承認の取り消しなどを訴えており、神真都Qの弁護人も務めている。今回の逮捕についても、こう反論する。

「メンバーの逮捕の実態は報道とは違っており、建物から出て行ってくれと言われないのに、建造物侵入に問われている。ワクチン接種阻止活動は“祖国防衛権”の行使と考えており、さらには神真都Qが反ワクチン運動のスケープゴートにされていると感じている」

 神真都Qはホームページ上で、デモの中止や入会の申し込みを一時停止したことなどを伝えている。幹部を含む逮捕者を出したことで腰が引けて、逃げ出したメンバーも少なくないと言われる。

 神真都Qに以前ほどの勢いはなくなりつつあるとの見方が強いが、コアな支持者が残りコミューンを作る可能性もあると指摘する声もある。

 この点で懸念を示しているのは上越教育大学大学院の准教授であり、宗教社会学者の塚田穂高である。神真都Qは人里離れた場所に土地を買って入植するという「エデン計画」を唱えているが、これには注意が必要だ、と説く。

「神真都Qは宗教的・スピリチュアルな要素の強い運動だと言える。コミューンにもさまざまなものがあるが、そうした宗教性と陰謀論的世界観、『エデン計画』のようなコミューン形態が結びつくと、オウム真理教に代表されるカルト問題の諸先例を想起せずにはおれない。財産の収奪や家族間の断絶などのトラブルや人権侵害につながる可能性もある。接種会場襲撃などで見せた攻撃性が、内側に向いた場合にどうなるか。過去の教訓を踏まえ、継続的な注視が必要だ」

 今後の行方はどうなるのか。

(了。前編から読む)

【プロフィール】
横田増生(よこた・ますお)/ジャーナリスト。1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。物流業界紙の記者、編集長を務め、1999年フリーに。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』(小学館刊)で新潮ドキュメント賞受賞。『「トランプ信者」潜入一年』(小学館刊)を刊行。

撮影/藤倉善郎

※週刊ポスト2022年5月20日号

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