ワークマンがカジュアル靴市場に本格参入、真逆戦略で「靴の大手」へ急浮上を狙う裏側

 “3強”の牙城を崩す旋風を巻き起こせるのか。  作業服チェーンのワークマンが6月16日、靴専門業態「ワークマンシューズ」の池袋サンシャインシティアルパ店を開業した。2022年4月に大阪の商業施設で出店を開始した新業態で、池袋の店舗が2店目となる。 【図表】作業靴も含めた履物カテゴリの売上高では、国内の靴小売り企業で4位に躍り出る  一般消費者にも訴求したワークマンのカジュアル衣料はこの数年で人気が加速度的に広まったが、商品数が少ない靴はそこまで大きな存在感を見せてこなかった。今後は専門業態で婦人パンプスやサンダルなど主に女性向けのカジュアル靴の幅を広げ、靴業界への本格参入に打って出る。

■靴ずれは「あってはならない」  ワークマンシューズの目玉商品が「アクティブパンプス」(税込2480円)だ。装飾などがないシンプルなデザインだが、機能にはいっさい妥協していないという。  作業靴と同じ衝撃を吸収する技術を中敷きに用いており、「見た目以上にクッション性がある」(ワークマンで靴製品の開発責任者を務める青木正志氏)。履き口にはゴムでギャザーを施し、脱げにくさにこだわった。  「パンプスを履いた女性が靴ずれして、かかとに絆創膏を貼っているのをよく見るが、ワークマンの靴では絶対にあってはならない」。同社の土屋哲雄専務は、婦人靴の開発で意識したポイントをそう語る。

 建設作業現場など過酷な環境では、靴ずれが起きると危険なうえ、絆創膏を貼りに行く間の作業が中断されてしまう。ワークマン社内ではそういった考えが浸透しているため、「(婦人靴でも)デザインよりも機能性を最重視している」(同)。  実際、値付けの手法も独特だ。ワークマンは、防水やクッション性といった機能を靴に搭載することを前提に開発し、機能の種類や数に応じて販売価格を決定する。デザインを起点に開発する一般的なアパレルや靴とはまったく異なる製品開発プロセスを採用している。

 この真逆の戦略こそ、ワークマンが靴市場に本格参入できたゆえんでもある。  靴はファッションアイテムであると同時に、歩行や運動機能をサポートする道具でもあり、一般的に参入障壁が高いといわれる。「靴は機能性などの付加価値が必須で、何か売りとなる機能がないと浸透しづらい」(三井物産戦略研究所の高島勝秀研究員)。  ファーストリテイリングも2009年、傘下のユニクロでオリジナルシューズの開発に参入した。しかし、カジュアルなユニクロの衣料とシューズのデザインが合わないなどの問題があり、売れ行きは伸び悩んで2年で撤退。2015年に再参入した後は機能性を強化し、ユニクロとGUで素材の柔らかさや履き心地を訴求した商品の展開に力を注いでいる。

 機能性に特化したワークマンでは、靴の売り上げが目下急速に伸びている(上図)。2018年3月期までは作業靴の売り上げが大半を占めた。しかし2019年3月期に一般客にまで顧客層を広げた「ワークマンプラス」を立ち上げて以降、カジュアル靴が牽引し、靴の売り上げは一気に拡大した。 ■以前は安全靴が圧倒的な売れ筋だった  作業靴も含めた売上高で見ると、ワークマンは靴の専門業態を展開する国内小売り企業の中で一気に4位へと躍り出る。将来的にはカジュアル靴だけで、靴小売り3強のエービーシー・マート、チヨダ、ジーフットに迫る売上高を目指す目標をぶち上げている。

 ただ、カジュアル衣料に比べ、カジュアル靴の開発を進めることにワークマン社内は慎重だったという。そのため商品開発のスピードも、衣料より時間を要した。理由の1つが、在庫管理の難しさにある。  S、M、Lでのサイズ展開が基本の衣服に対し、靴は23~28センチまで0.5~1センチ刻みで展開されることが多く、1アイテム当たりの在庫量は必然的に膨らむ傾向にある。店頭陳列やバックヤードでの保管においても、たたんで重ねられる衣服と比べ、靴はかなりのスペースを要する。

 また、ワークマンでは従来、靴の売り上げのおよそ4割を占める安全靴が圧倒的な売れ筋商品だった。新たにカジュアル靴を投入するには、それだけ他商品の陳列を減らすか、店舗面積を広げる必要がある。  「職人向けの靴は一定の顧客基盤があるため、商品開発をすれば売り上げを確保できる。売れ筋商品の売り場を割いてまで、ほかの靴の開発をするべきかという議論があった」(ワークマンの大内康二・商品本部長)  潮目を変えたのが、新業態であるワークマンプラスのヒットだった。一般顧客が大幅に増え、カジュアル靴の開発への大きな後押しとなったのだ。

 一般客に訴求するため、3つのプライベートブランドが立ち上がったことも追い風だった。「それまでワークマンでは“トータルコーディネート”という考え方がなかったが、各ブランドの服に合う靴が必要になり、開発が進んだ」(ワークマンの青木氏)。  在庫管理においても「作業靴の販売ノウハウがカジュアル靴でも生かせる」と、土屋専務は自信をのぞかせる。  そのノウハウとは、バックヤードで在庫を保管するリスクやコストを極限まで減らすため、作業靴などの一部商品で徹底している「売り切れ御免」主義で培ったもの。だが、多くの商品で品切れ状態が続いていては、逆に顧客は離れてしまう。そこでポイントとなるのが、980円の商品だ。

■980円の靴は店頭で品切れさせない  作業靴の看板商品である980円の安全靴は、ワークマンの店頭でつねに在庫を確保するように調整している。「他社が真似できない価格優位性があり、お客さんの引きも強いベーシックな商品が重要だ」(土屋専務)。カジュアル靴の場合、980円のキャンパス地スニーカーがこの“マストアイテム”に当たり、品切れさせないようにするという。  商業施設内で展開しているワークマンシューズは今後、単独路面店での出店も目指す。そのために靴のアイテム数を現在の62から150以上に広げる方針で、継続的な商品開発がカギを握る。

 現在展開している靴の価格帯は980円~2900円だが、「商品の幅を広げるため、3900円以上の靴も開発していきたい。ただ、その価格帯ではナショナルブランドなどと差別化を図れるかが難しい」(ワークマンの大内氏)。価格帯が上がるほどブランド力を持つメーカーとの競争が厳しくなり、価格に見合った斬新な機能性を打ち出せるかが肝になる。  靴専門店の牙城に食い込むべく始まった挑戦。ワークマンの十八番である、高機能商品の開発力と店舗運営マニュアルの磨き上げがいっそう重要となりそうだ。

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