ワークマンの再来か? キャンプ用品の雄「スノーピーク」が来店減でも大幅増収・増益を達成できた理由

業界で密かに「ネクスト・ワークマン」とささやかれているのが、スノーピークである。同社はビギナー層からベテラン層まで幅広いキャンプファンから支持を集め、アジア圏やキャンプの本場でもある米国でも勢力を拡大している企業である。

 スノーピークという名前からは、米ザ・ノース・フェイスのような外資系の雰囲気こそ感じられるが、同社は新潟県三条市に本社を置くれっきとした国産メーカーだ。そのルーツは1958年に山井幸雄氏が金物の問屋として創業した山井幸雄商店にある。山井氏は趣味が登山であり、当時の日本で売られていた登山用品の品質に不満を抱き、自社でオリジナルの登山用品を製作、販売し始めたことがきっかけだ。

 そこから、同社はオートキャンプといったアウトドアレジャーの普及の先駆けとなり、現在ではスノーピークがビギナー需要の受け皿となっている。一般的な旅行や娯楽が“密”であるとして公共交通機関の利用が忌避される半面、キャンプ場への移動は自家用車やレンタカーといった少人数での移動手段が用いられることが多い。また、キャンプ場では基本的に他の利用客とはテントを隔てていることから、感染リスクも非常に低い娯楽だ。

 グーグルの検索ボリュームの推移を時系列で確認できる「Google Trends」によれば、検索キーワード「スノーピーク」が2014年の夏ごろからじわじわと拡大を見せ、コロナ禍で一段と注目を集めている様子がつかめるだろう。

 そんなスノーピークはコロナ禍を追い風として業績を急成長させている。市場では18〜20年にかけて株価を大きく上昇させたワークマンの再来かとも囁(ささや)かれ始めているようだ。

 現に21年12月期における第3四半期までの売上高は、183億円と前年同期比で+61%、営業利益は25.5億円と前年同期比で+221%にも達している。単純な伸び率だけで比較すれば往年のワークマンの成長率を上回る成長ぶりを見せている。それでは、両社の間にどのような違いがあるのだろうか。

●スノーピークとワークマンの戦略

 同社はワークマンと同様に、郊外もターゲットに置いた出店戦略をとる。しかし、両社の店舗展開を確認すると、それぞれの戦略の違いがうかがえる。ワークマンは都心から等間隔・放射線状な幾何学模様を描くが如く出店している。一方で、スノーピークは都心部と郊外、そしてそこからさらに離れたエリアにも分散して出店している点で違いが見られる。

 都心部への出店にも重きを置くスノーピークは、コロナ禍に見舞われた前期20年12月期から今21年12月期の第3四半期(2021年1~9月)にかけて来店客数の回復が鈍く、売上高への悪影響も懸念されていた。しかし、ふたを開ければ2年連続の大幅増収増益を達成することができたのだ。

 同社はコロナ禍々で増収増益を達成できた理由として、「今年の3Qは緊急事態宣言などの影響で店舗の来店客数の回復が限定的であったが、目的を持って来店をされる方が多かったことから、都市部の直営店においても売り上げは増加」と分析している。これは、「計画購買」と「衝動買い」という消費者の行動からも説明がつくだろう。

 スノーピークは都心部にも展開しているが、これらの店舗は多くの来店客数が見込める半面、事前にそのお店で買い物を計画しているよりも“ついで”に来店するような顧客の割合が増加する傾向にある。人流が多い分、都心部ではたまたま入ったお店にいいものがあって購入するという「衝動買い」の割合が高まるわけだ。しかし、客数と売上高により高い相関を示すのは、あらかじめこのお店で何を買うか決めてから来店する「計画購買」の客層にある。

 この点について、確かに実店舗型で営業を行うスノーピークにとってコロナ禍が来店客数に影響を及ぼした。しかし、コロナ禍は副産物として人々のキャンプ需要を高めた。その結果、減少した多くの顧客は「衝動買い」層であり、名目の来店客数が小さかったとしても「計画購買」層の濃度が高まった結果、トータルでの売上高が増加したというわけだ。

●海外の伸びが顕著に

 もう一点、スノーピークとワークマンの大きな違いは、海外売り上げの有無である。

 ワークマンは仕入・生産というコスト面で海外を活用しているのに対し、スノーピークはブランドの海外展開にも積極的で、海外売上高比率は足元で2割程度まで伸びている状況だ。国別で見ると韓国・米国・英国での伸びが著しい。

 韓国における売上高は、第三四半期までの累計で17.2億円と前年同期比で+72%も伸張している。米国は13億円と、前年同期比で+80.5%だ。英国は3.3億円と小粒であるものの、前年同期比では4.12倍と成長率の点ではトップクラスを誇っており、世界的なキャンプ需要の受け皿としてスノーピークが選択され始めている様子がうかがえる。

 日本単体では前年同期までの売上高90.9億円が今年は141.2億円と、55%ほどの成長となっていることから、海外での売上拡大が日本を上回る勢いとなっていることが分かるだろう。

 スノーピークの強みとしては会員システムに根付いたファン層の囲い込みにあるが、米国・英国においては同社の会員システムが準備中であるにもかかわらず高い成長率を誇っている。そのため、アジア圏と同様に会員システムが整備されれば、マーケティングや顧客分析の点でさらなる伸び代があるとも考えられる。

 日本では過去の話題のようになりつつもあるコロナ禍であるが、グローバルな視点ではいまだに終息の兆しも見えない国々で溢(あふ)れている。世界的に見た場合、新たな生活・娯楽様式としてのキャンプは今後も拡大を続けていくのかもしれない。

 ちなみに、スノーピークの大株主に、創業一族の資産管理会社とみられる「雪峰社」という会社がある。雪(スノー)と峰(ピーク)で雪峰社ということであろうか、その名付けからは、趣味が高じて金型メーカーからアウトドアメーカーに転身した山井一族のお茶目な側面も垣間みえてくる。

(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)

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