ワークマンの大ヒットは、「安いのに高機能でオシャレ」だからではない

ワークマンの勢いが止まらない。

 新業態「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」が若者や女性からもバカウケで、なんと今年4月の国内店舗数は839と、ついにあのユニクロ超えを達成。数字的にも好調で、2019年3月期決算のチェーン全店の売上高は前年同期比16.7%増の930億円となっている。

【画像】新業態「WORKMAN Plus」が好調!

 そんな飛ぶ鳥を落とす勢いのワークマンの成功をメディアが分析する際、必ずと言っていいほど出てくるのが、「プロ向け作業着の品質を生かして激安なのに高機能でオシャレ」という褒め言葉だ。

 もちろん、これはファンの方ならば納得の評価だろう。かく言う筆者もそのひとりで、アウトドアウェア「フィールドコア」のストレッチパンツは手放せないし、防水性能ウェア「イージス」の高機能ぶりは、雨のキャンプで実感をした。

 だが、その一方で作業服業界全体を俯瞰(ふかん)してみると、「プロ向け作業着の品質を生かして激安なのに高機能でオシャレ」をワークマン成功の要因として語ることにはかなりの違和感がある。

 ワークマンが大ブレイクするはるか以前から、他の作業服メーカーでも「プロ向け品質を生かして激安なのに高機能でオシャレ」をうたうスポーツウェアやカジュアルウェアは展開しているからだ。

 例えば、北海道発の作業服店「プロノ」を展開するハミューレは2012年の段階で、『米作業着ブランド「ディッキーズ」と共同企画して雨がっぱなどデザイン性を高めた商品をそろえ、アウトドアやガーデニング目的の一般客が伸びている』(日本経済新聞北海道版 2012年5月18日)と報じられている。

 また、1924年(大正13年)に創業した、広島の老舗作業着メーカー「自重堂」は現在、新庄剛志さんをイメージキャラに起用して高い機能性のあるカジュアルウェア「Jawin」(ジャウィン)を展開、同じく俳優・市原隼人さんを起用して、スタイリッシュな世界戦略ブランド「Z-DRAGON」(ジィードラゴン)を展開している。

「パイオニア」は他にもいる

 という話だけを聞くと、「ははあん、ワークマンの大ヒットに便乗したいわけね」とか思う人もいらっしゃるかもしれないが、「Z-DRAGON」が生まれたのは15年。しかも「JAWIN」に至っては08年。ワークマンが現在のようなPB商品開発に参入する以前からあって、テレビCMではまだ吉幾三さんが「行こう、みんなのワークマン」と歌っていた時代だ。

 さらにさかのぼっていけば、「パイオニア」は他にもいる。やはり広島で1901年に備後絣問屋として創業して、現在まで118年の歴史を誇る老舗作業服メーカー「コーコス信岡」だ。

 イケメン・美女たちがモデルを務める「電子カタログ」を見ていただければ分かるように、同社の製品も「作業服」という言葉とかけ離れたシャレオツぶりで、「女性にも大人気! 累計販売点数282万点の大人気商品」(カタログ)だという吸汗速乾ポロシャツ・Tシャツをはじめ、「WORKMAN Plus」で売っていてもおかしくないような商品が豊富にそろっているのだ。

 では、全国各地のホームセンターに製品を供給している同社が、いつからそのようなワークマン路線へ進出したのかというと、今から25年も前のことだ。

 「同社は昨年から今年にかけ、カジュアル色の強いユニホームやスポーツウエア、アウトドア用ウエアを投入、個人消費者のニーズにも対応した品ぞろえを強化してきた」(日経産業新聞 1995年9月20日)

 ここまで言えばもうお分かりいただけただろう。絶好調ワークマンを語る際に、メディアや評論家が嬉しそうに語っている「プロ向け作業着の品質を生かして激安なのに高機能でオシャレ」というのは、別にワークマンが最初に考えたことでもなんでもない。むしろ、作業服業界的にはかなり昔から、どこでも当たり前のようにやっている「一般客獲得戦略」なのだ。「インフルエンサーマーケティング」に力

 という話をすると、「他の作業服メーカーと違ってワークマンはデザインがいい」とか「ワークマンが一番機能性が高い」とかなんだという方向へもっていきたい人もいるだろうが、これまでご紹介したメーカーの製品を実際に手にとってご覧になっていただきたい。

 みな現在のトレンドを意識した今風のデザインで、カラーも豊富にそろっている。機能面も折り紙つきで、それでいてしっかりと価格も抑えられている。ワークマンの製品と比べても決して遜色はない。中には、デザインやコスパ的にはワークマン以上というものも散見される。

 製品的にはそこまで大きな差はないメーカーが群雄割拠する中で、1社だけがポコンと頭を飛び出した。どうしても世間的には「製品」に注目が集まるので、とかく成功を「製品」に結びつけたがる。

 が、ちょっと冷静に考えてみれば、製品にはそこまで大きな差がないのだから、その1社は他のメーカーがやっていない独自の取り組みをしていたはずである。その何かが「差」を生じさせたと考えるのが自然だ。つまり、ワークマンがここまでの大成功を収めることができたのは、「プロ向け作業着の品質を生かして激安なのに高機能でオシャレ」ではなく、もっと別の要因があるのだ。

 では、それは何か。筆者は「マーケティング」ではないかと思っている。

 ご存じの方も多いかもしれないが、ワークマンはいわゆる「インフルエンサーマーケティング」に力を入れている。16年9月、初めて「ブロガー向け商品説明会」を開催。「ブログで商品を紹介することが参加条件で、ブログは開設から半年以上経過し定期的に更新されている必要がある」(日本経済新聞北関東版 2016年8月19日)という条件を満たした100名ほどのブロガーを招待した。

 18年からはブロガーという呼び方はやめて、「インフルエンサーの皆様」に対して、秋冬新商品発表会を説明している。

「フィードバック」がしっかりと機能

 このようなイベントはファッションブランドでは「常識」だが、作業着メーカーからすればかなり「異例」であることは言うまでもない。一般消費者向けを拡大したいという思いはあるが、やはりメインターゲットは、現場で働く「プロ」だ。彼らはユーチューバーやインスタグラマーが紹介したからという理由で商品を選ぶわけではなく、実際に店頭で手に持って、強度を確かめ、試着して動きを見るというのが一般的なのだ。

 だが、そんな「異例」なことをワークマンはしれっとやってのけている。なぜかというと、組織外の人々から大きな「気付き」を与えられたからだ。

 「同社は過去にも雨具がバイク向けに活用できるとネットで話題になり、オンラインストアのアクセスが急増するなど反響があった」(同上)

 バイカーたちが集うネット掲示板で「この価格で、この機能はヤバい」なんて感じで絶賛され、口コミで人気に火がついた、というわけなのだ。

 マーケティングに必要な情報は、自分たちの組織にはない。「外」の世界から得た情報を取り入れて、組織が学習をしていくか、つまりフィードバックしかない、とドラッカーは説いた。ワークマンはこの雨具がバズったという「想定外」の出来事をフィードバックして、自分たちの強みを理解した。

 それが現在のような、「インフルエンサーマーケティング」につながり、並み居るライバル会社たちから頭ひとつ飛び出す原動力につながったのではないか。

 もちろん、全ては筆者の勝手な想像に過ぎない。が、ワークマンという会社が「外」の世界から得た「気付き」をフィードバックすることができる組織だということを示す、動かぬ証拠がある。

 それは「賃上げ」だ。ワークマンが成功した本当の理由

 ワークマンがよく言われるもうひとつの評価が「ホワイト企業」というものだ。業績が好調となった13年に、全社員を対象に1年ごとに、年収の3%にあたる額を年2回の賞与に加算して支給するという方針を表明。14年には、20年3月期にかけて全社員の平均年収を約100万円上げる計画も発表している。

 これは、利益を社員に還元することで労働意欲を高めるというのが一番の狙いだが、「政府はデフレ脱却のため、業績好調な企業に従業員の報酬引き上げを要請しており、これに応える」(日本経済新聞 2013年2月19日)ためでもあるという。

 「昭和の日本企業」は日本人が大好きな「高機能・低価格」を、労働者の賃金をなるべく低く抑えることで実現してきた。だから、日本商工会議所のような「昭和の企業」の集まりは、賃上げに強固に反対をするが、これはよろしくない。

 「賃上げ」に踏み切れない会社は労働者の意欲も落ちて、新しいアイデアやアクションが生まれない。「低賃金労働によって生み出す低価格・高機能」という高度経済成長期型の消耗戦からいつまでたっても撤退できないので、「気合い」と「根性」への依存度が増してどんどんブラック企業化していくからだ。

 このあたりの問題をよく分かっているのが、「外」の世界から情報を仕入れて自分たちが置かれた状況を客観的に見ることができる企業、つまりフィードバックが効いている組織である。

 自分たちを俯瞰してみれるから、マーケティングも成功する。品質のいいものをつくっていれば消費者は買ってくれる、というプロダクトアウト的な内向きな思考ではなく、「プロ向け作業着の品質を生かして激安なのに高機能でオシャレ」というイメージをどうすれば社会に広められるかというユーザー目線で柔軟な発想ができるのだ。

 ワークマンが成功した本当の理由は案外、そんなところかもしれない。

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