ワークマンプラスに女性客続々、リーマンショックが新業態のきっかけに

長年日本の職人に愛される、作業服専門店「WORKMAN(以下、ワークマン)」。働く男の店というイメージが強いワークマンだが、2018年9月にららぽーと立川店にオープンした新業態「WORKMAN Plus(以下、ワークマンプラス)」は、若い女性を中心に人気を博しているという。(清談社 真島加代)

若い女性が訪れる新業態店舗

 ツナギ服などの作業服をはじめ、作業用手袋や安全靴が並ぶ「ワークマン」といえば、全国に840店舗(2019年5月現在)を構える、プロの職人御用達のワークウエア専門店だ。しかし、2018年にオープンした同社の新業態「ワークマンプラス」は、これまでのイメージを覆し、話題になっている。

「ワークマンプラスは、全国のワークマンで販売している商品の中からスポーツやアウトドアに役立つアイテムを中心にそろえた店舗です。『高機能×低価格のサプライズをすべての人へ』というコンセプトのもと、性別や年齢、使用用途にとらわれず、多くの人々にワークマンの高機能ウエアを提案しています」

 そう話すのは、ワークマンの営業企画部販売促進グループマネジャー・林知幸氏だ。ワークマンは男性客が多くを占めるのに対して、ワークマンプラスの来店客は30~40代の男女が半々の比率で訪れるという。

「予想以上に女性客が多いですね。この春からは、女性向け製品を拡大し『ららぽーと甲子園』や『ららぽーと湘南平塚』に、当社の5倍の広さの女性専用コーナーを設けました。その結果、アウトドアやスポーツウエアとして楽しむ人のほかに、作業ウエアを普段着にする『ワークマン女子』も増えています。我々も驚いているのですが、ワークウエアの女性人気はSNSを中心に広がっているようです」

 ワークマンプラスでは、アウトドアの「FieldCore(フィールドコア)」、スポーツウエアの「Find-Out(ファインドアウト)」とレインウエアの「AEGIS(イージス)」という3つのブランドを中心に展開している。

「この3ブランドはワークマンプラスだけで販売しているものではなく、既存のワークマンでも売られています。つまり、ワークマンプラスの商品は、全国のワークマンと100%同じということ。ワークマンプラスの特徴は、出店場所や店舗のレイアウトなど、ユーザーへのアプローチ方法にあります」

リーマンショックの危機が新業態誕生のきっかけに

 既存ワークマンの店内は、使用用途をわかりやすくしたり、商品カテゴリーごとにプレートを掲げたりと、メインユーザーの職人たちが購入したい商品をすぐに見つけられる工夫が施されている。

「一方、ワークマンプラスでは、照明をスポットライトにして、ワークマンでは使っていないマネキンを使用するなど、一般的なアパレル店の手法を取り入れています。現在はロードサイド店も展開していますが、1号店のららぽーと立川店のようなショッピングセンター内の店舗は初の試みでした。扱う商品は同じでも、ワークマンとは異なる切り口で展開しているのが、ワークマンプラスなのです」

 同社は、ワークマンプラスによって女性客や趣味でアウトドアやスポーツを楽しむ男性客など、新たな市場の開拓を実現したという。

 ワークマンの新たな可能性を提案している「ワークマンプラス」だが、オープンまでの道のりは決して平たんなものではなかった。“新業態”の構想は、2008年のリーマンショックにまでさかのぼる。

「リーマンショック前までは、制服として作業服を社員に配る中小企業に、作業服を卸すのがワークマンの主要な事業でした。しかし、リーマンショックのあおりを受けて、取引先の業績が悪化し、作業服の支給ができなくなる企業が増加。以来、作業服は『会社支給から個人購入』の時代になり、当社でも多様なニーズに応えるために新商品の開発に踏み出しました。同時に、新たな市場獲得への必要性も見えてきました」

 その後、新たにスカイブルーやイエローなど、鮮やかなカラーのシャツやパンツ、スタイリッシュなデザインのウエアを2010年頃から展開。当時は「派手な色の作業服はあまり売れない」という認識だったという。

「いまも、作業服は紺やグレー、黒など地味な色が主流。ただ、地味なカラーだけでは店内が暗い印象になってしまうので、あくまで“差し色”という感覚で派手な色を置いていました。そうするうちに、バイクユーザーやアウトドア、ランニングを楽しむ人たちなどにワークマンの製品がヒットしたんです」

妊娠中の女性にヒットしたコック向けシューズ

 趣味やアクティビティーのシーンでは、派手な色やデザイン性の高い商品へのニーズがあったのだ。それだけでなく、ワークマン製品の機能性とコスパの高さも話題になった。

「SNSを通して利用者の要望やユーザーの使用方法を分析していくと、“高機能・低価格ウエア”という新たな市場が見えてきたんです。特に驚いたのは妊娠中の女性がワークマンの『コックシューズ』を履いてSNSに投稿し、話題になっていたことですね」

 ワークマンのコックシューズは耐油性・耐滑性に優れ、水や油で床が滑りやすくなっている厨房の床でも安全に動けるという定番商品。妊婦や子育て中の女性の間で、その滑りにくさが高評価につながったのだ。また、「1900円という価格の安さも女性たちの心をつかんだのでは」と林氏は分析する。

「コックシューズの女性人気によって、ワークマンが長年こだわってきた“機能性の高さ”が、幅広いニーズに応えられることが明らかになりました。そのほかにも、雨の中でも作業ができるように防水性に特化した『撥水デニム』など、作業服視点で開発した技術にも注目が集まるようになったんです。この出来事は、新たな市場を開拓するきっかけになりました」

 新業態のプロジェクトが進むなかで、もっとも苦労したのは“ブランドのネーミング”だった、と林氏は振り返る。もともとは、新業態の店舗に「ワークマン」の名を冠する予定はなかったという。

「職人向け」で磨いた技術がワークマン女子たちに響いた

「当初は、取り扱いブランドと関連した『フィールドコアストア』など、ワークマンの名前を出さずに出店する予定でした。理由は、新業態が失敗したときにワークマンそのもののイメージ低下を防ぐため。ワークマンはFC展開なので、本部が行った新業態の失敗によって既存店のオーナーに迷惑がかかる可能性があるので、ワークマンを掲げるのは避けたかったんです」

 この同社の方針に異を唱えたのが、ワークマンプラス1号店を誘致した「ららぽーと立川店」を運営する、三井不動産の担当者だった。

「店舗のディスプレーも決まっていた最終段階で、ワークマンの名前を出さないことを先方に伝えると『ワークマンは“機能性の高さ”と“低価格”の面で評価されているブランドなのに、名前がなければ出店する意味がないです』と、三井不動産の担当さんに叱られてしまったんです。その後、再検討して“ワークマンの機能性がプラスされている”という意味を込めた『WORKMAN Plus』というネーミングに決定しました」

 紆余曲折の末、2018年9月に「ワークマンプラス」がオープン。初日は、開店と同時に多くの客が駆け込んでくるほどの大盛況ぶりだったという。

「オープン日の来客は、予想をはるかに超えていました。もちろん、自社製品の機能性には自信を持っていますが、他社との比較が難しい業界。これまで周囲の評価を目の当たりにする機会がなかったので、その日は本当に驚きました。ワークマンの価値を教えてくれたのは三井不動産やお客さん、ワークマン製品に汎用性があることを教えてくれたのはワークマン女子。渦中の我々はすべて“後追い”なんですよ」

 今後もワークマンプラスの出店を加速させ、2020年までに77店舗のオープンとさらなる女性客の獲得を目指すという。

「とはいえ、商品開発のターゲットは、あくまで“職人”であることに変わりはないです。これからも職人のみなさんが、仕事中に“着ていてよかった”と思える製品づくりを続けていきたいです」

 そう言って林氏は笑う。長年、脇目も振らずに職人たちの働きやすさを追求してきたワークマンの実直さもまた、現在の評価につながっているのかもしれない。

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