一億総中流”の時代は終わり

世界でも有数の巨大都市・東京には、地域格差が凝縮されている。タワーマンションが並ぶ湾岸地域や豪奢な一戸建てばかりの住宅街がある一方で、廃業した商店が並ぶシャッター通りや、日雇い労働者やホームレスが集まる地区もある。

「“一億総中流”の時代は終わりを告げ、東京では“格差”が広がり、そこから“階級”が生まれています」

 そう語るのは、ベストセラーとなっている『東京23区×格差と階級』(中公新書ラクレ)の著者で、早稲田大学教授の橋本健二氏だ。同書で橋本教授は、東京23区を町丁目にまで細分化して、所得水準に着目することで、東京23区の実相を浮かび上がらせている。

「一人当たりの課税対象所得額で比較すると、格差がはっきりします。所得がもっとも高かったのは港区(平均593.5万円、2015年)で、もっとも低かった足立区(156.8万円、同年)の3.79倍と約4倍に達しています。この差は、都道府県別で見た場合の東京都(1位)と沖縄県(47位)の所得差、2.37倍(同年)より大きい。23区内の経済格差は明らかに拡大していて、この傾向は今後も続くと考えられます」(橋本教授、以下同)

 世帯年収が1000万円を超える世帯の比率が20%以上に達しているのは、千代田・中央・港の都心3区。逆に200万円未満が20%を超えるのは新宿・中野・北・板橋の4区である。

 1975年の時点では、トップの千代田区と最下位の足立区の所得水準の差は2.3倍だった。だが、2000年代から都心の中央・港区などが大幅な増加に転じ、その一方で、東部の足立・葛飾・荒川区で低下が始まり、2008年のリーマンショックで足踏みしたものの、再び格差が広がっている。

 こうした23区内での経済格差には、2つの原則があり、中心部(千代田・中央・港区など)は周辺部より所得水準が高く、西部は東部より高いという。都心から離れていくほど所得水準は下がっていくが、西部の杉並・世田谷・目黒区などの一部には都心と肩を並べるほど所得の高い地域がある。

 こうした区別が生じたのは明治維新以降、中心部には高級官僚や資本家階級が、西部には企業管理職など新中間階級が、東部には労働者階級が集まったのが始まりで、それが時代の流れとともに変化してきたという。

「西部に位置する渋谷や新宿、池袋駅などでも、15分ほど歩くと木造住宅が密集している地域がある。千代田区も、お金持ちばかりとは限りません。たとえば神田はもともと下町で自営業者が多く、最近まで所得水準は低めでした。

 一方、下町と誤解されがちな文京区根津や千駄木は実際には山の手にあり、所得水準は高い。高台の“山の手”は江戸時代に武士が住み、明治維新後は新中間階級が住むようになりましたが、低地の下町は町人が住み続けた。そうした前提を理解した上で実際に歩いて見て回り、町丁目ごとに細分化して数字を見ていけば細かな構造が見えてくるのではないかと考えて、本書を著わしました」

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