一発屋の代名詞に? 軽んじられる芸人の「決め台詞」

昨今、お笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世が執筆した、一発屋のその後をまとめた書籍『一発屋芸人列伝』(新潮社)が「雑誌ジャーナリズム賞」を受賞し話題となっている。その中に登場する多くの芸人たちは人気フレーズなどを武器に活躍した芸人たちなのだが、強烈なパワーを持つ“決め台詞”で一世を風靡しながらも、その後が続かず低迷を余儀なくされる芸人も数多い。それゆえ、“決め台詞”=“一発屋”と言うイメージが広く定着し、芸人の“決め台詞”が軽んじられている風潮もあるのではないだろうか。

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■代名詞たる“キメ台詞”を手に入れれば一躍「人気芸人」の仲間入りに

お笑いの界の歴史を紐解くと、人気芸人たちのブレイクのきっかけとして、視聴者の記憶に残るパワーワードが関係していることが見えてくる。

昭和の時代、しゃべくり漫才を世に広めた横山エンタツ・花菱アチャコの「滅茶苦茶でごじゃりまするがな」や人生幸朗・生恵幸子の「責任者出てこい!」、植木等の「お呼びでない?」、谷啓「ガチョーン」、萩本欽一の「なんでそうなるの!」など、高度成長期を象徴する数々の名フレーズが生まれた。また、ザ・ドリフターズでは、いかりや長介の「オイッスー!」、「次行ってみよう」、加藤茶の「ちょっとだけよ~」、「加トちゃん、ペッ!」など多くの定番ネタを生み出した。

1980年から82年にメディアを席巻した漫才ブームの時代には、B&Bの「もみじ饅頭」、ビートたけしの「コマネチ」、横山やすし「怒るでしかし!」、西川きよし「小さな事からコツコツと」、西川のりお「ツクツクボーシ」と、今でも聞く珠玉のギャグの数々が誕生した。さらに、お笑い第三世代では、とんねるずの「一気!」「貴さんチェック」、ダウンタウンは「イラっとする」「逆切れ」「パンチが効いてる」などの名フレーズが記憶に新しい。

以降、さまぁ~ず・三村マサカズの「~かよ!」、オードリー「トゥース」、サンドウィッチマン「ちょっと何言ってるか分からない」など数々の“決め台詞”が世に送り出されてきた。お笑い芸人にとってこうしたパワーワードをいくつ持っているかは、人気のバロメーターとも言えよう。

■“決め台詞”=一発屋という色眼鏡で過小評価されている芸人も

ハマると圧倒的な武器になる“決め台詞”。しかし、そのインパクトの強さゆえに、次の芸が見いだせず“泥沼”にハマる芸人も多く、数年後にはTVでほとんど見られなくなってしまった、という芸人も多い。それは“決め台詞”の光彩がまばゆい上に、その後の停滞もワル目立ちしやすい点も関係しているだろう。そのため、決め台詞1本で勝負する芸人に対しては「すぐに消えそう」「もう飽きた」といった、色眼鏡をかけた批判が出ることも多く、こうした“決め台詞”を軽んじる風潮はブレイク芸人の登場とセットになっている。

それは「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンに入るとその芸人は消える、というジンクスがネットでまことしやかに囁かれていることからも明らかだ。

実際、波田陽区の「残念!」(04年)、レイザーラモンHGの「フォーー!」(05年)、エド・はるみの「グ~!」(08年)、スギちゃんの「ワイルドだろぉ」(12年)、とにかく明るい安村「安心して下さい、穿いてますよ」(15年)など、いずれもメディアを席巻した“人気フレーズ”ではあったが、今ではテレビで見る機会もめっきり減っている。

■一方で“決め台詞”のポップさが、実力派芸人をブレイクさせる「助け舟」になることも

これは、「流行語大賞」のインパクトが強いだけに、そこで消費され切ってしまう面もあるだろう。と同時に、流行語となった“決め台詞”を超えるパワーワードを生み出す難しさも大きく関係している。

実際、ブルゾンちえみは、「35億」の決め台詞でブレイクした後、その次が見いだせず苦悩し、「一発屋で終わるのが怖くて仕方がなかった」とメディアで明かしている。2月に開催された『ワタナベお笑いNo.1決定戦2018』では「35億」を封印し、堂々新ネタで勝負を仕掛けたりもした。同大会に出場した平野ノラも同様に、あえてバブルネタを封印することで、自身に染み付いた「バブル臭」を打ち消すことを試みるなど、それぞれが生き残りを模索している。

一方で、お笑いコンビ・千鳥の代名詞となっている「クセがすごい」などの名フレーズは、東京でブレイクするために見つけ出した“決め台詞”とも言える。というのも、千鳥は自身がブレイクするためにオードリーの「トゥース」や、ブラックマヨネーズの「ヒーハー」といったコンビの代名詞たる“キメ台詞”が必要だと感じており、そのことをラジオなどで度々発言していたのだ。

このように、“決め台詞”のインパクトに消費されないだけの実力を身につけた芸人が、武器となる“キラーフレーズ”を手に入れた場合、その“ポップさ”により全国区のブレイクを果たす場合もある。

■一発屋芸人たちが地方で再ブレイクする逆転現象も 懐かしのネタがTVに帰ってくる?

“決め台詞”は視聴者の大きな笑いを生む一方で、“一発屋の武器”という先入観によって軽んじられる傾向が見受けられる。ところが近年、持ち前の“決め台詞”のパワーを元に、一度は表舞台から消えた芸人たちが、地方の営業という形で再ブレイクする“逆転現象”が起きている。髭男爵・山田ルイ53世が著書にも書いているように、テツandトモ、ダンディ坂野のようにTV露出は減ったものの、持ち前の“決め台詞”のパワーを元に地方営業で成功を収める“一発屋”が増えているという。

「右から来たものを左へ受け流すの歌」でブレイクしたお笑いタレント・ムーディ勝山もその一人。07年のブレイク後に低迷し、いつしか世間からは“一発屋”と呼ばれるようになった。しかし、今やムーディは地方局にレギュラー番組を6本持つ“売れっ子”への大逆転を果たしている。

ムーディはこうした現状について、一発屋とは「みんな“消えた人たち”ではなくて、“一度大当たりした人たち”」とポジティブにとらえている。そして、「一発も当てられない人がほとんどの世界で、しっかり当てているわけですから」とコメントしている。

ムーディの言葉通り、現在のお笑い界は上は詰まりっぱなし、下からは若手が輩出され続けるという閉塞感の中、もはや”一発当てる”ことさえ難しい状況。つまり、いま“一発屋芸人”と呼ばれ軽んじられているかつての売れっ子たちは、売れるべくして売れた実力者たちでもあるのだ。

そんな“一発屋”たちが今後、一世を風靡した“決め台詞”を武器に再びTVの檜舞台に戻ってくるかもしれない。 地方で蓄えた実力を元にTVで復権を果たすのか? それともやはり“一発屋”のままで終わるのか? 彼らの再挑戦の行方を見守りたい。

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