“一石三鳥”タイ、外国のロケ撮影を積極誘致

タイが外国の映画などの撮影を積極的に誘致している。撮影部隊の受け入れが外貨収入やタイ人スタッフの雇用につながるほか、外国人観光客の呼び込みにも結びつき、“一石三鳥”の効果があるからだ。ただ、ロケ撮影の誘致が環境破壊につながるといった批判の声もある。
 ◆日本は第2位
 現地紙バンコク・ポストなどによると、2010年にタイで撮影された映像作品は、テレビコマーシャル(CM)や音楽のプロモーションビデオ(PV)などを含めて578本で、8億7000万バーツ(約49億4000万円)の収益があり、09年と比べ、制作本数で16.5%増、収益は2倍以上に増えた。
 国・地域別で最も多かったのはインドの128で、日本が123で続く。ジャンル別ではテレビCMが255本で全体の44%を占めるほか、ドキュメンタリー178本(30.8%)、PV50本(8.7%)、映画49本(8.5%)、テレビ番組46本(8%)だった。
 これまでもタイでは、さまざまな映画が撮られてきた。ブルース・リー主演「ドラゴン危機一髪」(1971年)、ロジャー・ムーア主演の「007 黄金銃を持つ男」(74年)、シルベスター・スタローン主演の「ランボー 怒りの脱出」(85年)、「ランボー 最後の戦場」(08年)、ジョージ・ルーカス監督の「スターウォーズ エピソード3/シスの復讐(ふくしゅう)」(05年)などだ。
 ◆低コストが魅力
 タイが撮影地として好まれるのは、コストが低いためだ。スタッフが一流ホテルに泊まり、高級レストランで食事をしても米国で制作するよりも20分の1の費用ですむという。
 また、タイは山岳地帯から平原や海岸、農村から大都市まで豊かな景観を誇り、多様なロケ地に使える。近隣のベトナム、カンボジア、ミャンマーなど、撮影許可が下りにくい国の代替撮影地となるのも利点だ。
 オリバー・ストーン監督の「天と地」をはじめとするベトナム戦争映画や、クメール・ルージュ(カンボジア共産党)の自国民虐殺を描いた「キリング・フィールド」もタイで撮影された。
 さらに、タイには優秀な映画制作スタッフがそろい、最新の編集機材・設備も整う。映画制作にかかわる事務手続きを代行する現地会社によるサービスも充実している。
 ◆政府が優遇策
 タイ政府は今年、外国のロケ撮影を誘致する優遇政策を打ち出し、昨年を上回る20億バーツの収入を期待している。海外の映画制作会社には出国時に付加価値税(消費税)を還付するほか、20~25%の税控除を行う。これまで出演者に課されていた10%の所得税を免除し、タイで2度目に撮影を行う会社には税制でさらに優遇する。
 また、国立公園、新バンコク国際空港、タイ国鉄、タイ財務省、タイ王立森林局などが所有・管理する場所での撮影料が無料となる。
 「007」シリーズのロケが行われたプーケット島では、撮影地を巡る「ジェームズ・ボンド・アイランド・ツアー」も行われ人気だが、観光客が殺到し環境破壊も心配されている。
 レオナルド・ディカプリオ主演の「ザ・ビーチ」(00年)の撮影では、米大手映画制作スタジオの20世紀フォックスが、タイ南部ピーピー・レー島をより楽園らしく見せるために景観を変え、サンゴ礁も破壊された。自然保護団体が同スタジオを提訴し、タイ最高裁判所で有罪判決が出る騒ぎもあった。
 映像作品の制作は裾野が広く、地元経済への波及効果も大きい。外国ロケの誘致で継続して利益を生み出すために、自然環境との共存を図る“持続可能な撮影”が求められている。(シンガポール支局)

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