一部地域で早くも劇的効果、治安改善の切り札、日本の「交番」にブラジル全土が期待

ワールドカップ(W杯)開幕以来、観戦に訪れた日本人サポーターが強盗やひったくりの被害に遭うなど、ブラジルの治安の悪さがクロースアップされてきた。2年後にはリオデジャネイロ五輪も控えているだけに、治安の改善は急務だが、ブラジル国民が大きな期待を寄せているのが、日本が“輸出”した「交番制度」だ。
 サンパウロ郊外のハニエリ地区は、1995年当時、1カ月に発生する殺人事件の数が40件を超え、国連から「世界一危険な地域」に認定されていた。頭を悩ませた州警察が着目したのが、日本の治安の良さと独自の交番制度だった。そして1997年、サンパウロ州警察がブラジル初となる交番を導入。2000年からは国際協力機構(JICA)が日本の警察庁の協力を得て、日本での研修や短期専門家の派遣などを通じて、サンパウロ州の治安改善に向けた取り組みを行ってきた。その結果、ハニエリ地区で昨年1年間に発生した殺人事件は3件と激減したのだ。
 W杯直前の6月10日には、警察庁と神奈川、埼玉両県警の警察官計4人が、サンパウロ市のロタリー交番などを視察。JICAでは今後も継続してブラジルの治安改善に協力していく予定だ。
 JICAは、1980年代からシンガポールやインドネシアなど、さまざまな国で交番制度の導入を支援しており、いずれも治安が劇的に改善。「最も成功した国際貢献のひとつ」とまで言われている。
 サンパウロ州では昨年4月時点で210カ所以上に交番が導入された。サンパウロ州に限らず、2008年にはリオデジャネイロ州にも交番ができるなど、2018年までにブラジルの全27州に交番制度を拡大することを目指している。
 もっとも、JICAによると、「交番制度によって治安が大幅に改善していることは事実ですが、ブラジルにおいてはまだ発展途上です。実際に強盗事件などが起きているように、治安改善にはまだまだ取り組まなければならない課題が多くあってシンガポールのように治安のいい国にするためには、まだこれからです」と話す。
 また、こうした動きはブラジルだけにとどまらず、同じように治安の問題を抱えているエルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、ホンジュラスといった中米諸国にも広がりつつある。
 日本の交番のルーツは、江戸時代の「番屋」にまでさかのぼるといわれる。その特徴は地域住民との密接な関係だ。地域に根ざしているからこそ、不穏な動きがあればいち早く察知し、迅速に行動することができる。この日本独自のセキュリティーシステムは明治以降も受け継がれ、市民の安全を守る上でなくてはならない存在となっている。
 今回のW杯ブラジル大会で日本代表はグループリーグを突破することができなかった。だが、敗戦後に日本人サポーターがスタジアムのゴミを拾う姿が大きく報じられるなど、“日本の良さ”はブラジル国民の心にも大きく響いたはずだ。まだ緒に就いたばかりだが、日本が世界に誇る交番制度も、やがてはブラジル社会に深く浸透していくことになるだろう。(普)

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