三井不動産と三菱地所の株式時価総額(株価×発行済み株式数)トップ争いが不動産業界の話題となっている。
異変が生じたのは9月5日。三井不動産の時価総額が前日比微増の3兆3981億円だったのに対し、三菱地所は1.5%減の3兆3939億円。わずか42億円とはいえ、不動産業界の首位が入れ替わり、逆転は1980年以降で初めてとあって業界内で話題を呼んだ。だが、三菱地所も負けてはいない。9月30日の時価総額は3兆4321億円で、三井不動産の3兆3306億円を再び逆転した。抜きつ抜かれつの激しいデッドヒートの決着はつくのか。
不動産デベロッパーは、巨額資金を投じて開発したビルや商業施設、マンションを企業・個人へ賃貸・販売などすることで収益を上げ、その資金を元手に新たな不動産開発を行うという事業モデルだ。
三井不動産は売り上げ規模トップのリーディングカンパニーで、オフィスと商業施設の賃貸、マンション販売でバランスよく利益を稼いでいる。2015年3月期の売上高は前期比1.6%増の1兆5400億円、営業利益は6.0%増の1830億円を予想しており、ともに過去最高を更新する見込みだ。今夏に公募増資などで約3300億円を調達しており、東京・日本橋地区の再開発計画のほか、20年の東京五輪を控え、今後も再開発案件が増えるとの期待から同社株が買われている。
一方、三菱地所は利益面で伸び悩んでいる。15年3月期の売上高は同0.3%増の1兆790億円、営業利益は16.9%減の1340億円を見込んでおり、3期連続で営業利益は三井不動産を下回る見通しだ。売上高に続いて営業利益でも負け、時価総額でも逆転を許した。
三菱地所の最大の強みは、「東京・丸の内の大家」として莫大な含み資産を有していることだ。14年3月期末の賃貸等不動産の時価は5兆3956億円。この時価と決算書に計上している簿価との差額が含み益だが、含み益は2兆964億円に達しており、三井不動産(時価3兆4726億円、含み益1兆2159億円)を大きく上回る。
東京・虎ノ門や六本木地区で大型オフィスビルの開業が相次ぎ、相対的に丸の内の優位性が薄れつつあり、それが三菱地所のウイークポイントだと指摘されている。三井不動産のほうが利益拡大の余地が大きいと判断され、株価を押し上げた。
●マンション販売が急失速
しかし、ここにきて三井不動産の株価上昇に急ブレーキがかかりつつある。首都圏のマンション販売に暗雲が立ち込めてきたからだ。不動産経済研究所がまとめた8月の首都圏マンション発売戸数は、前年同月比49.1%減の2110戸となった。前年比の減少は7カ月連続であり、減少幅はリーマン・ショック直後の08年9月(53.3%減)以来5年11カ月ぶりの高い水準となった。
首都圏マンションの実際に売れた戸数の割合を示す契約率も、前年同月比で11.9ポイント低下して69.1%。好不調の分かれ目とされる70%を19カ月ぶりに下回った。前年8月は同年9月までに購入契約をすれば消費税率が5%で済んだため、駆け込み需要が発生した。だが、販売落ち込みの要因は、駆け込み需要の反動減だけではないとの懸念が広がっている。
そのひとつが建築費の高騰だ。マンション価格の上昇が続き、8月の1戸当たりの平均価格は5685万円で、前年同月比889万円(18.5%)と大幅にアップした。バブルの余韻を漂わせていた1992年11月の5711万円以来の高水準だ。そのため、埼玉県や千葉県では1次取得者向けの販売が振るわなかった。9月の発売戸数は3000戸の見込みで前年同月の5970戸から半減する。ここまでは想定内だか、問題は10月以降。価格がこれだけ高騰するとマンション販売は厳しいとの見方が、株式市場で強まってきた。
株価が上昇する決め手に欠ける状態にあるため、三井不動産、三菱地所とも株式時価総額は足踏みが続くとの予測が多い。そうした中で、両雄のトップ争いは一段と激しくなる。
前述の通り「丸の内の大家」と呼ばれる三菱地所に対し、三井不動産は「日本橋のデベロッパー」と呼ばれている。丸の内が勝つのか、日本橋が逆転するのか。東京で隣接する、有名な商業地に営業基盤を持つ両社の対決がどのような結果をもたらすか。東京を代表する商業地区の争いだけに、関心は高まるばかりだ。
(文=編集部)