不況下の小売り優等生・アウトレットに異変

東京湾アクアラインの木更津金田出口に程近い海沿いの土地で現在、急ピッチで工事が進んでいる。4月13日に開業を控える「三井アウトレットパーク木更津」。敷地面積21万5000平方メートルと、三井不動産が運営するアウトレットモールの中でも最大規模で、開業時には日本初出店の高級店を含む171ブランドが出店する。
アウトレットモールの市場規模の推移
「東京、横浜からバスで40分余りという好立地。都心客の取り込みが狙える」と、開発に携わる商業施設本部の片山朋之主事は期待を膨らませる。羽田空港からもわずか25分とあって、アジアを中心とした海外観光客取り込みも可能と見る。
■老舗アウトレットが閉鎖 市場が突如減速したワケ
不況によって百貨店やショッピングセンターなど商業施設の苦戦が続く中、アウトレットモールは市場規模の拡大が続いている(図)。高級ブランド店の在庫品が格安価格で購入できるお得感に加え、観光地やテーマパークなどに隣接する施設が多いことが付加価値となり人気が定着した。イオンが埼玉県越谷市に「レイクタウンアウトレット」を、東京急行電鉄が神奈川県横浜市に「シブヤ109アウトレット」を出店するなど、アウトレット専業者以外の新規参入も目立っている。
が、右肩上がりで成長してきた業界に異変が起きている。
昨年6月、老舗モールが「アウトレット」の看板を下ろした。1993年に国内初のアウトレットモールとして誕生した埼玉県ふじみ野市の「アウトレットモールリズム」だ。
開業当初は40のブランドが出店していたが、2000年以降退店するテナントが出始め、閉店時にはわずか数店しか残っていなかった。運営するエス・オー・ダブリューは「規模が小さく、施設を広げる余地もない。このままアウトレットとしてやっていっても、2強(三井不動産とプレミアム・アウトレットを運営するチェルシー・ジャパン)に太刀打ちできない」と話す。同商業施設はイオンモールの力を借り、7月にSCとして新たに出直す計画だ。
08年に大阪コスタモール、09年には千葉のコンサート長柄が閉鎖するなど、アウトレットが廃業するのは初めてではない。が、当時とは状況が異なる。アウトレット市場は00年以降、年率5%以上の成長を続けてきたが、11年は前年比約2%の成長にとどまったとされる。東日本大震災の影響があるものの、業界内には「一時の勢いはない」(大手デベロッパー)との声も出始めている。
アウトレットの“減速”について、船井総合研究所の岩崎剛幸上席コンサルタントは「完全にオーバーストア状態」と分析する。実際にアウトレットはこの5年間で全国に8カ所増加。既存施設の増床も積極的に行われている(表)。
さらに、こうした状況はアウトレットの魅力自体を低下させる別の事態も引き起こしている。
もともとアウトレットは、アパレルブランドなどが都心の百貨店などで処分できなかった在庫商品を、値引きして販売するのが特徴。ところが、店舗数が増えるにつれて、近年「リーマンショック後に在庫圧縮が進み、(アウトレットに)回せる商品が減っている」(大手メーカー)。いきおい、売り場を維持するためにアウトレット向けの専門商品が作られ始め、中には「5割以上が専用商品になっている店もある」(同)。
だが、専用品の氾濫は目の肥えた消費者の客離れを招くおそれもある。今後さらに出店や増床が続けば、商品不足に拍車がかかり、アパレルだけでなく、アウトレット自らのクビを絞める事態にもなりかねない。
■品定めするアパレル 2強以外は逆風も
こうした中、今後はアウトレットの中でも明暗が分かれることになるだろう。
一段と勢いを増しそうなのが、三井不動産とチェルシーの2強だ。すでに全国38カ所あるアウトレットの半数は両社が運営しているが、「会社帰りに立ち寄れる駅前施設、カジュアルブランドをそろえたスーパー隣接施設、レジャーと一体化し、幅広いブランドをそろえた郊外施設など、差別化すればアウトレット市場はまだまだある」(三井不動産・商業施設本部の清水聖主事)と今後の出店にも意欲を見せる。
実際、11年から13年の開店と増床のほとんどは、同社とチェルシーによるもの。怒濤の店舗拡大によってチェルシーの12年3月期の売上高は308億円、営業利益は87億円に上り、それぞれ5年前に比べて約70%膨らむ公算と、業績は順調に伸びている。
対して、集客力のカギを握るアパレル側は「(アウトレットに)該当する商品はそう多くない。出店は少なくなる」(大手アパレル幹部)と消極的だ。ただ、「三井不動産とチェルシーは有力アウトレットを持つ重要な取引先。誘われたら、ほかのモールから撤退してでも出たい」(同)との本音も漏らす。
こうした傾向が強まれば、拡大する2強のあおりを受けるアウトレットが出てくることは必至。市場成長が続く一方、生き残りを懸けた戦いが始まりつつある。
(本誌:鈴木良英 撮影:風間仁一郎 =週刊東洋経済2012年3月10日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

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