・二人以上世帯に限れば貯蓄総額の4割以上が70歳以上の世帯で占められている(2017年)。
・個々の1世帯単位で比べれば、高齢層は若年層と比較して貯蓄額が大きい。その高齢層の世帯数が増加し、若年層の世帯数が減っているため、二人以上世帯全体に占める高齢層世帯群の貯蓄額比率が増えている。
・二人以上世帯の総貯蓄の約85%は、50代以上の世帯だけで保有している(2017年)。
世帯数と貯蓄総額を全体比率で確認すると
日本における高齢化社会の進行とともに論議される話題の一つに、年齢階層間の資産格差がある。元々経年による蓄財があることから、高齢者の方が貯蓄が多いのは当然の話なのだが、現実問題としてどの程度の年齢階層間による格差が生じているのだろうか。今回はその指針の一つとして、2018年5月に公開された総務省統計局による「家計調査」の「貯蓄・負債編」最新版速報値などを用い、二人以上世帯における現状やこの数年における変移を確認する(「貯蓄・負債編」では単身世帯は対象としておらず、その値を精査することはできない)。
今回用いる各値は「家計調査」の「貯蓄・負債編」の最新版および過去の値を引き継いだもの。なお「貯蓄」とは負債を考慮しない、単なる貯蓄の額。預貯金だけで無く、生保の掛け金、有価証券、社内貯金、さらには共済などの貯蓄の合算。また負債をいくら抱えてても相殺されることは無い。
次のグラフは「該当世帯数全体における、各世帯主年齢別の世帯数比率」、そして「各世帯主年齢階層別の、貯蓄総額に占める金額比率」を算出したもの。
これらのグラフには当然ながら「単身世帯」は含まれていない。従って日本全体の状況を指し示しているわけでは無いが、昨今の状況における概要的なものは十分把握できる。
元々若年層は蓄財の機会・期間が少なく、収入も少ない。当然貯蓄も少なくなる。さらに高齢者世帯が増加し、若年層世帯の数が減少しているので、世帯数割合が減少する。結果として「年齢階層別の貯蓄総額比率」も、高齢層が増えていく結果になるのは明らか。
直近の2017年分は70歳以上の世帯が増加したことを受けて、同階層の資産比率も増加している。二人以上世帯に限れば、貯蓄総額の4割近くが70歳以上の世帯で占められている。60歳以上に区切れば7割近くとなる。
シニア層全体の貯蓄額増加の実情は
上の2つグラフから(特に2番目のグラフを見て)「世帯主が高齢層の世帯は皆が皆、ますますお金持ちになっていく」「若年層がさらに年々圧迫を受けている」と誤解をする人がいる。しかしこの結果は、2002年以降時間の経過とともに個々の高齢者世帯が富んでいくことを意味しない。それは次のグラフを見れば明らかである。
つまり「所属年齢階層全体では無く、個々の1世帯単位で比べれば、元々高齢層は若年層と比較して貯蓄額が大きい。その高齢層の世帯数が増加し、若年層の世帯数が減っているのだから、二人以上世帯全体に占める高齢層世帯群の貯蓄額比率が増えても当然」となる。「個々のお年寄り世帯がますます裕福になっている」とは構成要素一つ一つの値の比較と、各年齢階層全体による値の比較を混ぜ合わせてしまうことで生じてしまう、誤解の一つである。
一方で同時に、年齢階層別全体で見た場合、直近2017年においては「二人以上世帯の総貯蓄の7割近くは、60代以上の世帯だけで保有している」「二人以上世帯の総貯蓄の約85%は、50代以上の世帯だけで保有している」ことになる。
さらに付け加えるとすれば、今件は単なる「貯蓄」であり、負債の考慮は無い。そして負債の多くは住宅ローンで、50代前後にはほぼ完済していることから、実質的な「純貯蓄額」(貯蓄から負債を引いた額)の総量はさらに50代以上に偏ることになる。
内需喚起が叫ばれる昨今だが、若年層に無理な支出を強いるより、「60代以上で7割近く」「50代以上で約85%」(二人以上世帯のみ)の貯蓄を市場に、無論サービスなどの対価として、吐き出させるかを考えた方が効率はよく、確実性は高い。やせ細ったまだ成長過程の樹木から未成熟の果実をもぎ取るより、熟した果実が実った大人の木々から収穫を得た方が、はるかに健全なのは誰の目にも明らか。
誤解を受けかねないので付け加えておくが、これは「高齢層に無駄遣いをさせろ」を意味しない。支払いの価値がある効果・満足感を得られる商品・サービスを考察し、提供していき、お財布のひもを緩められるだけの社会的安心感を提供し、さらには資産を市場、そして特に若年層に還流させる仕組みを多数創り上げることを意味する。
それこそが社会全体の活力・生産力を底上げし、高齢者の満足感と、後に続く世代に直接の資産だけで無く、将来に続く国富をも手渡せる道につながるはずである。
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(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。