<国際学力調査「PISA」による日本の子どもの読解力の低下が話題となっているが、もっと深刻な問題は世界で日本だけがデジタル化の潮流に逆行していること>
経済協力開発機構(OECD)の国際学力調査「PISA2018」の結果によると、日本の生徒(15歳)の読解力は15位となっている。前回2009年の調査時の8位から大幅に低下したことで「PISAショック」と騒がれているが、その原因としてコンピュータ形式のテスト(CBT方式)に慣れていないことが指摘されている。
今の10代は幼少期から情報機器に囲まれて育ったデジタルネイティブの世代だが、日本の子どもはスマホは使うものの、パソコンの使用率は低い。上記調査によると、「自宅にノートパソコンがあり、自分もそれを使う」と答えた生徒の割合は35%でしかない。アメリカ(73%)、イギリス(78%)、果てはデンマーク(94%)とは大きな違いだ(デスクトップパソコンについても別途、調査していて同様の結果)。お隣の韓国(63%)とも差が開いている。学校での使用率も同じだ。
調査対象国の中での位置を見ると、驚くべき結果となっている。<図1>は、自宅と学校でのノートパソコン使用率のマトリクスに50カ国を配置したグラフだ。
日本の生徒のパソコン使用率は低く、発展途上国以下であることが分かる。学校での使用率は最下位だ(縦軸)。教育のICT(情報通信技術)化が著しく遅れている。教育のICT化とは授業で情報機器を使い、教授活動の効率を上げることだけを意味するのではない。庶務連絡や提出物のやり取りをネット経由でするなど、校務のICT化も含む。これが進めば教員の過重労働もだいぶ緩和されるはずだが、現実はそうなっていない。
デンマークなど教育のICT化が進んだ国ではパソコンは必須だ。これがないと宿題も出せないし、庶務連絡も届かない。同国の生徒のほぼ全員が自宅で(専用の)パソコンを使うというのは頷ける。
日本の生徒もスマホの使用率は高く、それで十分と考えているようだ。SNSで仲間と交信し、イベント情報等をチェックするだけならスマホで事足りる。だが、情報を独自に加工し、創作物を生み出すとなるとパソコンが必須となる。これからの時代、情報の消費者に甘んじるのではなく、情報の生産者(創作者)になるべきだ。
日本でも生活様式のICT化が進んでおり、以前に比したら子どものパソコン使用率も上がっていると思われるかもしれない。しかし日本の15歳生徒のパソコン使用率(自宅)は、2009年の48%から2018年の35%へと下がっている。何とも奇妙だが、このような国は他にあるのだろうか。<表1>は、33カ国のノートパソコン使用率の変化を示したものだ。過去9年間の伸び幅が大きい順に並べている。
2009年時点で使用率が低かった国では大幅に上昇している。中国のマカオでは19%から71%へと激増した。韓国も23%から63%に大きく増えている。しかし日本だけは下がっていて、2009年には韓国や中国、発展途上国より高かったが、2018年では最下位に転落している。
スマホが普及したためだが、それは他国も同じだ。日本だけでパソコン離れが起きているのは、宿題をしたり作品を創作したりする用途で使う生徒が少ないからだろう。
日本だけが国際的な潮流と逆行しているようで何とも恐ろしい。世界規模でデジタル革命が起き、イノベーションを競うようになるなか、これでは日本は取り残されてしまう。手のひらサイズのスマホをいじるだけで満足させてはいけない。ICTを積極的な用途で使うよう、子どもを指導するべきだ。
そのための一歩はまずパソコンに触れさせること、それが必要不可欠な環境を用意することだろう。まずは学校の校務を徹底的にICT化し、パソコンがなければ庶務連絡も分からず、課題の提出もできない――こういう環境を意図的に作り出すことから始めるべきだ。
子ども1人にパソコン1台という方針が示されているが、バラマキをしたところで、用途がなければそれに自ら触れることはない。財源は学校のICT化に費やすべきで、パソコンは各家庭に用意してもらう。困窮家庭の場合は就学援助の範疇で支給(貸与)すればいい。
荒療治かもしれないが、それが必要なほど日本のICT教育が危機的な状況にあるのは今回のデータから明らかだ。
<資料:OECD「PISA2018」>