2018年の「世界経済フォーラム」(WEF)の年次総会で提出された「活動成果および重要な調査結果」によると、ノルウェーは経済指数でみた「世界で最も国民にとって優れた国」とのことです。WEFは、世界の社会問題の改善に取り組む国際機関で、年次総会は知識人やジャーナリスト、多国籍企業経営者や国際的な政治指導者などのトップリーダーが一堂に出席し、世界が直面する重大な問題について議論する場です。
The Inclusive Development Index 2018 – Reports – World Economic Forum
Davos 2018: Norway is the best country in the world to live, according to the WEF ? Quartz
この結果は、国内総生産(GDP)とは異なる指数「The Inclusive Development Index」(IDI)を使用して算出されました。IDIは、国民の生活水準と経済の将来的の保護に焦点を当てた国家経済成績を表す新しい指標で、GDPに替わる指数としてWEFが打ち出したものです。WEFの資料によると、、IDIが高い先進国の10カ国の順位は以下のとおりとなっています。なお、IDIの成績を表すIDIスコアは、最低点となる「1.0」から最高点の「7.0」で表されます。
◆先進国The Inclusive Development Index(IDI)指数上位10カ国一覧
1位:ノルウェー(IDIスコア:6.08、国民1人あたりGDP順位:2位)
2位:アイスランド(IDIスコア:6.07、国民1人あたりGDP順位:12位)
3位:ルクセンブルク(IDIスコア:6.07、国民1人あたりGDP順位:1位)
4位:スイス(IDIスコア:、6.05、国民1人あたりGDP順位:3位)
5位:デンマーク(IDIスコア:5.81、国民1人あたりGDP順位:5位)
6位:スウェーデン(IDIスコア:5.76、国民1人あたりGDP順位:6位)
7位:オランダ(IDIスコア:5.61、国民1人あたりGDP順位:10位)
8位:アイルランド(IDIスコア:5.44、国民1人あたりGDP順位:4位)
9位:オーストラリア(IDIスコア:5.36、国民1人あたりGDP順位:7位)
10位:オーストリア(IDIスコア:5.35、国民1人あたりGDP順位:13位)
資料では、IDI指数順位とともに国民1人あたりのGDPでの順位が併せて記載されています。1位のノルウェーの場合は「IDIの順位で1位、IDIスコアGDPの順位で2位」なのですが、2位のアイスランドは「IDIの順位で2位のGDPの順位で12位」となっており、IDIと1人あたりGDPの結果が異なっているのが興味深いところ。なお、IDI順位の部分の色は、1人あたりのGDPとの隔たりの大きさを色で示したものとなっており、緑が最も解離性が高いものとなっています。
なお、日本のIDIでの順位は24位。IDIスコアは4.53、国民1人あたりのGDPは14位となっています。1つ上のIDI順位23位にはアメリカが入っており、IDIスコアは4.60、国民1人あたりのGDPは9位となっています。
IDIの算出には、「Growth and Development(成長と発展)」「Inclusion(包括性)」「Intergenerational Equity and Sustainability(世代間の共生と持続可能性)」の3つの大きな中心的指数が使われています。この3つの中心的指数はそれぞれ、次のような要素で尺度が決まります。「Growth and Development(成長と発展)」は1人あたりGDPと、主に労働生産性や雇用、健康な平均寿命などで決まる尺度。
By John Pederson
「Inclusion(包括性)」は、ジニ係数や世帯の平均所得などを使った「貧困富と所得の不平等」の尺度。
「Intergenerational Equity and Sustainability(世代間の共生と持続可能性)」は、公的債務、GDP比の炭素強度(エネルギー消費量に対する二酸化炭素の排出量)、天然資源の枯渇などの分野により算出される尺度です。
By 401(K) 2012
WEFの資料を見ると、ノルウェーのIDIを試算する項目の内訳では、「Growth and Development」「Inclusion」「Intergenerational Equity and Sustainability」のいずれの項目においても、上位20パーセント以内を表す緑色の数字が多く含まれていることがわかります。
海外メディアQuartzによると、WEFはGDPについて「経済活動に関する視野の狭い尺度」だと考えており、「GDPの指数の高さが市民への利益の高さに直結しているとは思っていないだろう」とのこと。例えば、汚染を吐き出す工場が半径10キロ圏内の人を中毒にさせていたとしても、GDPの観点からは、経済的に良い行いであり、医師や病院への訪問が増加し、葬儀場が忙しくなることも「GDPにとって良い行いである」という可能性があります。
アメリカの多くのエコノミストやビジネスアナリストは、経済データとGDPを最も重視しており、それ以外の情報はほとんど注目されません。 GDPの動きは通貨の流通量を緩めたり、締め付ける判断を中央銀行に指示します。有権者は、GDPが十分に速く上がっているかどうかで政府の働きを判断します。アナリストは、政府の景気刺激策が「どの程度GDPに影響を与えるかどうか」で判断します。
しかし多くの研究グループは、GDPへの執着は愚かであると主張しており、WEFが掲げる「IDI」の考え方はGDPへの執着に一石を投じる可能性があります。WEFは、包括的な開発指数(IDI)を用いるべきだと述べており、WEFによると、過去5年間で29の先進国は、「成長と開発」のスコアを3%以上押し上げましたが、それらはIDI指数の「包括性」の面で見ると成長にはつながっておらず、所得格差は拡大しています。
By Chris Richards
前述のように、WEFは、世界で最も包括的な先進経済はノルウェーであると考えています。それは「世代間の共生と持続可能性」が好成績で、他の2つ中心的指数「成長と発展」「包括性」も高水準であるため。また、IDI指数ランキングのトップはアイスランドやルクセンブルク、スイスなど比較的経済規模の小さな欧州諸国によって占められており、トップ10における唯一の非欧州国はオーストラリア(9位)です。G7諸国のうち、ドイツ(12位)が最も高く、その後はカナダ(17位)、フランス(18位)、英国(21位)、米国(23位)、日本(24位)、イタリア(27位)が続きます。
この順位は、アメリカの医療制度についての議論と同じ様相を呈しています。新自由主義的な福祉医療は高価すぎて、多くの人は医療を受けられません。包括的な先進経済を持つ国家になるのためには、経済成長だけでなく福祉的な国家のシステムと世代間の共生や持続可能性などが必要であるといえそうです。