キリストが処刑を逃れて日本に渡ったとの伝説が残る青森県新郷村で6月2日、60回目の「キリスト祭」が開かれる。人口約2100人の小さな村は、半世紀以上にわたり「奇祭」を受け継いできた。キリストの墓をはじめ、不思議な史跡が多く残る。その魅力も相まり、オカルトファンが熱視線を注ぐ「聖地」として、世界中から観光客を集めている。
(青森総局・関根梢)
キリスト祭は、墓が立つ「キリストの里公園」で毎年開催されている。神事でキリストを慰霊し、地元の女性たちが墓の周りで北東北の一部に伝わる盆踊り「ナニャドヤラ」を舞う。昨年は国内外から300人超が集った。
とっぴな伝説の起源は1935年にさかのぼる。茨城県に伝わる古文書「竹内文書」の発見を契機に、処刑を免れたキリストが日本に渡り、村で106歳の生涯を閉じたとする説が降って湧いた。
文書は後の歴史学者から偽書と鑑定されたが、村内では、ヘブライに似た「戸来(へらい)」という地名があることや、子どもの額に十字を書く風習などとひも付け、「湧説」として語り継がれてきた。
キリスト祭は64年、地元神社の発案で始まったとされる。主催する村観光協会の担当者は「当時を知る人によれば、大真面目に祝詞を奉じる様子には、さすがに失笑が漏れたとか。大切に伝承してきたことで、今では村民が一体となる祭りになった」と話す。
村にはキリストの墓のほか、日本最古のピラミッドと言われる巨石や未確認飛行物体(UFO)の目撃情報など数多くのミステリースポットや逸話がある。
近年は、村を度々取り上げてきたミステリー雑誌「月刊ムー」と村ふるさと活性化公社がタッグを組んでイベントを開催。22年から村内のキャンプ場で開く「ミステリーキャンプ」は、超常現象や都市伝説の研究家らのトークショーとアウトドアを楽しめる人気イベントだ。
逸話の真偽を超越し、米国や欧州からも観光客が訪れる。墓近くにある「キリストの里伝承館」に置かれたノートには、「オカルトの聖地に来られて感無量です」「神秘的で面白い」と来館者の熱っぽいメッセージが並ぶ。
公社の角岸秀伸事務局長は「今や、伝説の真偽を問うやぼな声はほとんどない。まんざらうそでもないかも、という絶妙なあんばいがマニア心を引き付けているのでは」と分析。唯一無二の観光資源に、さらに磨きをかけようと意気込む。
今年のキリスト祭は午前10時~正午にキリストの里公園である。慰霊祭のほか、県内や岩手県の団体を交えた「ナニャドヤラの祭典」などが行われる。