世界遺産とトンデモ科学

【from Editor】
 22日の世界遺産条約関係省庁連絡会議で、「富士山」と「武家の古都・鎌倉」が世界文化遺産に推薦されることになった。今後は政府が推薦書を国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提出、世界遺産委員会の審査を経て「合否」が決まる。世界遺産は後世に残すべき自然や文化の指定が目的で、世界的観光地としてのブランド認定ではないのだが、平成19年に登録された石見銀山遺跡は観光客が前年比2倍とブームに。経済効果を考えると、地元が登録を大いに期待するのも当然だろう。
 今年6月には東京・小笠原諸島が登録された。環境省によると、小笠原に自生する400種以上の植物の約4割、樹木に限ればなんと約7割が固有種という。生物ではカタマイマイなど陸産貝類は9割以上が小笠原独自で、アカガシラカラスバトといった絶滅危惧種も多い。東京から太平洋を南へ約千キロ、絶海の孤島群は異種の侵入を拒む絶好の環境だ。
 だが、小笠原の固有種の進化が止まっているわけではない。小笠原諸島の誕生は4800万年前とされるが、テレビなどで見る限り、動物たちは太古の姿で闊歩(かっぽ)してはいない。情報が遮断された環境で、固有種たちは一体、どのように変化を積み重ねてきたのか。
 「生物の同一種が同じ形態になるのは、形態形成場に時空を超えた共鳴現象が起きることによる」
 十数年前に英国の生物学者ルパード・シェルドレイクが提唱した「形態形成場仮説」だ。外部の集団と教えあったり真似(まね)しあったりしなくても、どこかでいったん「形の場」ができあがれば、他の同一種は時間や空間を超えた「形の共鳴」というプロセスで導かれていくという仮説である。
 例えばロンドンの実験室でラットの集団にある行動パターンを学習させると、まったく交流のないニューヨークの別のラットはもっと短い期間で身につけるという。これは進化には科学の力をもってしても解き明かすことができぬ、何やら大きな力が働いているというオカルト風な発想であり、このためシェルドレイクの著作は科学誌から「焚書(ふんしょ)もの」と糾弾された。しかしこの仮説、小笠原の固有種をみるとあながちホラ話と決め付けられないような気もする。
 今ではすっかり下火になってしまったが、当時はニューサイエンスやらトンデモ科学やら、真偽はともかく想像力をかき立てられる著作でにぎわっていた。秋の夜長、浮世離れした世界につかってみた。(地方部次長 大野正利)

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