中古マンション価格は2012年と比較して、直近半年(2023年8月~2024年1月)は約2倍に値上がりした。全国で190%、首都圏では189%、近畿圏では187%となっている。それに対して、中古戸建て価格は全国で119%、首都圏では126%、近畿圏では122%となっている。マンションは戸建てに比べて大幅に値上がりしているのはなぜだろうか?
これにはいくつかの要因があるが、それぞれの価格の決定要因を理解しておく必要がある。新築価格はマンションでも戸建てでも土地代+建物代の足し算で決まる。これを「積算価格」と言う。新築価格が値上がりすると周辺の中古価格は連れ高になる。
戸建ての建物代は22年で減価償却
一方、中古価格ではマンションと戸建ては違うメカニズムで価格決定される。戸建ては新築同様に土地代と建物代の足し算となるが、建物代は木造なので22年で減価償却することにされている。つまり、22年で資産価値がゼロになる計算をする。1年に4.5%も下落するのだ。土地代は購入時と変わらないケースが多いので、建物が古びた分だけ安くなる。
これは銀行の評価方式の問題でもある。銀行は住宅ローンを出す際に、不動産の評価を行うが、戸建ては積算で、マンションは取引事例で行う。
そもそも減価償却は経費計上するための税制上の話であって、実際の資産価値を意味しない。もし、そんな短期間に資産価値が下がるなら、長期優良住宅など存在しないことになる。単に、銀行の評価方式が経済的な価値に対応できていないのだ。しかし、住宅ローンでの借入額が頭打ちになっていては、売買価格は上がるわけはない。
ちなみに、アメリカでは減価償却での経費計上は認められているが、資産価値は別評価になる。イギリスでは地震がほぼないことから、建物が劣化するという考えすらなく、減価償却制度自体がない。日本でもマンションに対する戸建て差別とも取れる方式は非常識だと筆者は考える。
中古マンションに積算価格を適合しにくい理由
不動産における消費税は土地代にはかからず、建物にだけかかる。このため、新築でも中古でも売買するときに建物代は明確になっている。その点では、戸建てもマンションも同じなのだが、マンションは土地に実感がない。10m2相当の土地を持っていると言われても、どの部分かも不明であるし、その土地だけを売ることはできないので、有名無実なのだ。
そして、その土地の査定などは類似事例がなくわからないため、できるはずがないのだ。加えて、マンションは鉄筋コンクリート造なので、耐用年数が47年と長く、1年に2.1%しか下がらない。土地と建物の価格が半分ずつだとしたら物件価格の約1%の下げ圧力にとどまる。
こうなると、中古マンションに積算価格は適合しにくい。結果として、周辺の取引された事例と比較して、価格を決めることになる。これを「比準価格」と言う。こうなると、周辺に高値の新築が出ると、新築とも比較して価格は上がりやすくなる。
この前提に立つとマンション独歩高は不思議ではなくなる。建築費は木造よりも鉄筋コンクリート造のほうが値上がりしている。土地代は戸建て用地とマンション用地の上がり方は比較にならないほど違う。戸建て用地は戸建て以外に利用用途がない。
その売り主になるのは、すでに持ち家を持っていた高齢者になるケースが多い。相続が発生して売却される土地は死亡人口と比例するのに対して、戸建てを購入したい人はファミリー世帯に限られる。つまり、供給は死亡人口、需要は出生人口に比例するのだ。
少子高齢化が急速に進む日本では死亡人口は増え続け、出生人口は減り続け、2008年以降死亡人口が出生人口を上回り、総人口が減少の一途をたどっている。こうなると、戸建て用地の需給バランスは逼迫する方向には動かない。
コロナ禍で一時的に歯止めはかかったが…
これに一時的に歯止めをかけたのが、コロナ禍のステイホームだった。リモートワークが増え、仕事場スペースがない自宅の住み替え需要が急増した。この際、戸建て用地価格は上昇した。その際に飛ぶように売れた新築分譲戸建てを街の不動産屋が土地を買って、ビルダーに建ててもらい、短期で売りさばく事業に参入が相次いだ。
こうして、戸建て用地価格は高騰したが、今は売れ行きも落ち着き、土地の在庫件数は急増し、価格が落ち始めているのが2024年の現状だ。
一方で、マンション用地はマンションだけでなく、オフィスビルや商業ビルやホテルなどになる可能性がある。今なら、コロナ後に盛り返したインバウンド需要が旺盛で代金を上げやすいホテルの収益性をマンションが上回るのは難しい。
そうなると、都心や駅から離れた立地でないと新築分譲マンションは供給されない。単純にこれまでとは立地が劣るということだ。とはいえ、こうした高層の建物が建つ買い手の多い土地は競争入札などを通して最高値で買い上げられていく。安くなる理由などどこにもないのだ。
こうして、オフィスやホテルには向かないが、マンションが集中して建つエリアでは価格が高騰する。その代表格が湾岸のタワーマンションだ。
大事な視点は「立地が優れているか」
勝どき駅の例を見てみよう。既存物件の相場はわずか2年の間に3割ほど値上がりした。同じ時期に売り出したA物件とB物件は販売期間が異なる。
Aは早々に売り切ったが、Bは相場上昇に合わせて新築分譲価格を切り上げて8年間かけて売っている。Aのほうが立地はいいが、販売時期のずれで新築単価としてはBのほうが高くなってしまった。このため、現在の中古単価はBのほうが高い。売却しようとしている人は自分が購入した価格を基準に、これよりも高く売りたいと考え、売出価格設定するからだ。
この2つの物件のどちらを購入するかを悩んでいた人から相談を受け、この事態が発覚した。私は迷わず立地がよくて、安いAを購入したほうがいいと告げた。金融取引のアービトラージ(裁定取引)同様に、現時点では割安なAは値上がりしやすくなるからだ。
今後もこうしたことが起こるだろう。その際に大事な視点はどちらが立地において優れているかである。マンションのように、周辺の取引事例が高くなればいくらにでもなり得る商品は価格メカニズムの神髄を理解しているものが得をするのである。それは立地がいいマンションほど、価格を上げやすいということに尽きる。
著者フォローすると、沖 有人さんの最新記事をメールでお知らせします。