中国「チベット支配礼賛」偽ツイッター次々判明…政府お抱え「5毛党」によるプロパガンダ世論誘導か

 チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世が7月6日、79歳の誕生日を迎えた。中国内のチベット人らは政府の禁止令に反し、密(ひそ)かに長命を祈ったという。だが、高齢に伴い、現実味を帯び始めているのが後継者問題。中国は14世の死を待って、傀儡(かいらい)の15世をまつりあげるとみられ、チベット支配の正統性を広めるのに躍起だ。そうした中、中国統治を絶賛する偽ツイッターアカウントの存在が暴露された。
(河合洋成)
大量の偽アカウント
 「高地に育ったオオムギが豊作となり、チベットの人々は(中国政府に)感謝している」
 投稿したのは「トム・ヒューゴ」氏。ここ数カ月、チベット人が中国支配を歓迎しているというツイッターを大量に書き込んでいたが、ロンドンに拠点を置く世界的チベット支援団体「フリーチベット」が、全く別人の何者かによる「フェイク(偽物)」であることを突き止めた。
 同団体のウエブサイトによると、中国礼賛の英文ツイッターで100以上の偽アカウントの存在が判明。いずれも、中国通の白人を装い、チベットの安定と発展を語っている。だが、投稿者の過去の写真やプロフィルが一致しない▽姓を重ねた“変名”が使われている▽内容のフォーマットが重複し、同時多発的に発信されている-などの点がその偽の“証拠”とされた。
 偽ツイッターにはモデルを使った広告の一部やカメラマンの作品など、ネット上に残された写真が勝手に使われ、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、2006年に死んだピンクフロイドのボーカル、シド・バレットやテレビドラマの人気女優の写真なども貼付されていることを紹介。
 ダライ・ラマ訪米を批判するツイッターに作品を使われたアトランタのカメラマンが「不法行為で不愉快だ」と憤る声も伝えた。
「5毛」で投稿
 偽アカウントの正体は何か。中国政府が発信源とは特定されていないものの、フリーチベットの広報担当者は米国の放送局に「多くのアカウントは北京が拠点の会社のウエブサイトにリンクしている」と指摘。偽モノの最初は2012年頃に遡(さかのぼ)れるともしている。
 ニューヨーク・タイムズは国家の関与を疑わせる実態を伝えている。
 中国には、「5毛党」という組織があり、1件0・5人民元(5毛)でネットやチャットにポスティングする政府お抱えの投稿者がいるという。狙いは「共産党に都合の悪い問題について世論誘導するため」だ。
 同紙は対外宣伝戦略の先頭を担う北京のウエブサイト製作会社の社員にもインタビュー。「偽アカウントには手を染めていない」と断りながらも、「欧米世論に向けたプロパガンダを流すことが使命の会社ならドンピシャのやり方だ」と言ってはばからない。
 「ダライ・ラマの外国訪問は金儲け行脚」。偽アカウントは中国支配の優位性だけではなく、そんなダライ・ラマへの攻撃にも利用されている。「ダライ・ラマは中国を封じ込めようとする米国のチェス駒にすぎない」というツイートには6500のリツイートがあり、あたかも支持が広がっているように印象づけている。これも操作された数字とされ、プロパガンダを拡散する手段になっているという。ツイートからは、官製宣伝サイトにつながるようにもなっている。
懸念される後継者
 こうした謀略宣伝にもかかわらず、ダライ・ラマへの崇敬は中国がチベットへの弾圧姿勢を強めれば強めるほど高まっている。
 7月の誕生日、中国政府はチベット人が住むチベット自治区や青海省、四川省で3家族以上が集まることを禁じ、市場や町中に保安部員らを展開させた。それでも、チベットの人々は人目につかないよう、「チベットの旗を掲げ、お祝いをした」ことを自由アジア放送は伝えている。
 北インド・ラダック地方レーで行われたセレモニーには、ハリウッド俳優のリチャード・ギアも参加し、14世の長寿を祈った。
 中国は昨年、チベットを“解放”した1951年以来の経済成長などを自負する白書を発表。青蔵鉄道の延伸計画も掲げ、地下資源豊富なチベットの開発を推し進めている。同自治区への漢人移住者もチベット人口を超えた。
 一方、亡命チベット政府はチベットの宗教や文化、伝統を尊重した自治権拡大を求める非暴力の「中道」政策を掲げ、中国政府に対話を呼びかけている。だが、中国側はダライ・ラマを「分裂主義者」と罵倒し続けるだけだ。
 1995年、6歳で転生が認められたチベット仏教第2位のパンチェン・ラマ11世は両親とともに中国当局に拘束され、未(いま)だに行方がわからない。変わって当局お墨付きの11世が存在している。中国は法制度からも締め付けてきており、ダライ・ラマの後継者が同じ運命をたどる可能性は否定できず、ウイグル族への弾圧同様、チベット植民地化促進に一分の容赦もない。
 指摘された偽アカウントは、発覚後すぐに破棄された。だが、氷山の一角。有象無象の情報があふれるネット社会は「宣伝戦」を仕掛けるには格好の場に違いない。中国に限らず、大阪を含めて日本でも起こりうることでもある。

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