いまだ新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。3月9日から、日本政府は中国・韓国からの入国者(日本人も含む)に対して、2週間の「待機要請」をスタートした。
とはいえ、これは強制力がない「要請」で、待機場所は「自宅がある人は自宅、海外の人は当人が滞在するホテルなど」で、しかも自費だ。政府が隔離用施設を用意したり、外出を禁止するわけではない。
◆2週間、部屋のドアから一歩も出られない
これに対して、中国では2週間の徹底的な“強制隔離”を行っている。中国の主要都市は、3月3日から、日本・韓国・イタリア・イランなどからの入国者をガチで隔離しているのだ。
3月7日に成田空港から上海浦東国際空港に渡航した日本人男性、Kさん(貿易業)は言う。
「私は上海にも自宅があるのですが、14日間は部屋のドアから一歩も外に出てはいけないんです。一歩もですよ? ゴミ出しに出るのもダメで、地域の係員が取りにくる。もちろん買い物にも一切行けないので、知人に食料を運んでもらいます。
自宅がない人は、国が用意した隔離用ホテルに、空港から専用バスで直行です。
それと比べると、日本は2週間隔離といっても、本当に防ぐ気があるのか?と思ってしまいますね」
その隔離用ホテルが3月7日、福建省で倒壊して死者が出たのだから恐ろしいが…。
良し悪しは別として、中国の徹底した水際作戦について、体験したKさんに聞いた。
◆QRコードで、外出しないか監視
「上海空港に着いて、2時間も機内待機になりました。空港の検疫所が大混雑していて、3月4日には、機内待機が9時間半だったそうです。
飛行機を出ると、空港の係員がすべて防護服とマスクと飛散防止ガードと手袋で完全防備していて、映画みたいでしたね。飛行機で私の隣に座っていた中国人親子は、成田空港のゲートからすでに防護服を着ていました」(Kさん)
二重三重の検疫の流れを聞いていて、「徹底してるわ…」と感じた点を挙げておこう。
ひとつは、 QRコード管理。空港に入ると、職員がQRコードを持って立っており、スマホで読み込むよう指示される。するとスマホ上に赤いバーコードと入国日が表示され、これは2週間後にグリーンに変わるという。すでに中国では、アリペイ、ウイチャットペイなどのキャッシュレス決済が浸透しきっており、 QRコードで個人の行動が筒抜けになる。
「もし2週間以内に外出したり、どこかの店で決済したら、すぐバレて警告の電話が来ると思う」とKさん。
検疫所には新しいゲートができていて、通るとサーモカメラで撮影と体温の自動測定がされる。
サーモカメラ自体は、日本の空港でも導入され始めたが、中国の場合は、「同じ機内に一人でも37.5度の熱がある人がいれば、その便の搭乗者ごと隔離施設行きだと聞きました」。
空港の外は、普段は出迎えの人で溢れているが、今は禁じられているので一切いない。Kさんの場合は、知人に出迎えを頼んでいたが、その人のIDなどを登録して、やっと外に出ることができたという。
◆自宅前には警官と医者が。体温計と消毒剤をくれる
さて、空港から自宅にたどり着いたあとが、また大変だ。
「マンションに入る前に、警官1人、医者1人、地域の住民委員会係員が2人、やってきました。私一人のために、医者まで来たのはびっくりです。でも高圧的なわけではなくて、『お気の毒ですねえ』という紳士的な態度でした。
そこで、体温計と消毒用の錠剤を渡されました。また、日本語で隔離生活の注意が書かれていて『破ると罰則です』という紙にサインをして、やっと部屋に入れたんです」(同)
体温計と消毒薬まで配るとは驚きだ。毎日2回、朝8~9時と16~17時に体温を測り、SNSに書き込んで担当医に送信することが義務づけられている。もし体調に異常があったり質問したい場合に、電話できる市民ホットラインも記されている。
また、日本語とイラストで書かれた「在宅隔離 健康TIPS」という紙には、「トイレのあとは、便器に消毒剤を入れて、フタをして流す」など、こと細かな注意が書かれている。
翌日、午後1時過ぎに防護服を着た係員がゴミを回収に来たが、これは在宅しているかどうかチェックする意味もありそうだという。専用の黄色いゴミ袋で回収していったというから、処理も分けてするのだろう。
◆心理状態がどうなってしまうのか…
ここまでやるのは、政府が強権を持つ中国ならではだろう。だが、実際に感染者数は落ち着いてきている。3月8日には中国本土での新感染者数は40人と減少していて、うち36人は武漢、4人は海外からの入国者だ。つまり、武漢以外の地域では新たな国内感染者が出ていない。
「疑わしきは罰する、というのが中国です。こういう生活が続いたら、心理状態がどうなってしまうのか…。でも、本気でウイルスを抑え込むには、ここまでやるべきだと思いますね」(同)
日本が9日から行う、入国者への「2週間、待機要請」は、どのぐらい実効があるだろうか――。