中国で日本製品が空前のブーム!上海自由貿易試験区活用のシナリオ

● 日本製品商談会で 「中国側の食いつきが違う」
 中国で日本製品がにわかに人気だ。機能、デザイン、安全性を満たした日本製品、その「欲しかった日本製品」に、手が届く人の数が格段に増えたのだ。
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 11月下旬、遼寧省大連で、日本の地方銀行17行が主催する日本商品の商談会が開かれた。ここでは、これまでとは異なる大きな変化が見られた。山口銀行大連支店の宇野宏支店長は「中国側の食いつきが違う」と驚きを隠さない。
 「大変多くの中国バイヤーが参加し、出展ブースには入れ替わり立ち替わりの列ができるほど。従来、多かったのは日本からの調達ニーズへの反応でしたが、今年は『日本製品を中国で売りたい』というバイヤーの姿が目立ちました」(同)
 中国人にとって憧れだった日本製品に手が届くようになったのは、所得向上もあるが、人民元に対する円安効果もある。
 日本製品人気は、中国在住の日本人をも巻き込んでいる。駐在員など日本人が一時帰国するときには必ず、「あれ買ってきて」と懇願される。
 保温機能付き弁当箱、目薬、ハンドクリーム、最新のスナック菓子にカップラーメン……。上海企業に勤務する日本人女性は「帰国のたびに中国人の同僚から依頼を受ける」と話す。
 中には買い物リストを渡されるケースや、かさばる紙おむつや女性用ナプキンなどを依頼するケースもあるという。
 「最近は、数々の受賞歴のあるサントリーのウィスキーを頼まれました。頼まれ物は “重量オーバーとにらめっこ”となり、いつも困惑させられます」と苦笑する。
● 需要は旺盛だが仕入れに難 ゲリラ的輸出入に規制の網
 一方で、浙江省寧波では「日本製品の輸入で一山当てたい」と、地元企業が食指を動かした。
 今夏、日本の中国系商社にこの寧波からの商談が舞い込んだ。その中国系商社マンはこう話す。
 「ある浙江省の貿易会社が、日本製品の輸入をしたいと持ちかけてきました。『日本製品はいいものが多く、地元でもメチャクチャ人気だから』と言うんですよ。彼は非常に積極的でこんなふうに言ったのです。『化粧品や日用品など、とにかく売れそうなものを日本で買い付けて1つのコンテナに詰めて中国で売るんだ。協力してもらえないか』とね」――。
 ところがこの商社マンが調べてみると、そう簡単でないことがわかった。買い付けの対象となった人気製品はすでに在庫切れ。そこでメーカーから直接仕入れようと直談判に乗り出したが、“一見の客”はまったく相手にされないという始末。ほどなくして、この事業計画は暗礁に乗り上げてしまった。
 「欲しい! 」と思う日本製品の購入だが、身近に取り扱い店舗がない中国で日本製品を購入するには、他人に買ってきてもらう「代購」(代理購入)に依存するケースが圧倒的だ。そして、「代購」で手に入れた商品をネット上で業として販売する、通販ビジネスがここ数年急成長した。日本のニュース番組でもたびたび放映される「中国人の爆買い」は、個人使用やおみやげといった範囲を越え、実際には転売目的の「仕入れ」という側面を持つ。
 しかし、個人のハンドキャリーには限界がある。そこで日本商品の“仕入れ”の多くは「密輸出行為」で中国に納品される。日本在住の中国人仲介人と提携し、EMS(国際郵便)などを使って商品を中国に送付させたり、日中間を頻繁に往復するキャビンアテンダントやツアーガイド、訪日観光客に免税で大量購入させたものを密輸業者が買い取るなどの、アンダーグラウンドな組織がこれまでの日本ブランドブームを支えてきたのだ。
 これらは「個人利用を目的に購入した外国製品」という名目で中国に持ち込まれるわけだが、近年、中国ではこの密輸・脱税行為の取り締まりが強化されるようになった。背景には2014年8月1日から中国で施行された「クロスボーダー貿易電子商取引による貨物、物品の輸出入に係る監督管理事項に関する公告」がある。
 そのせいか、中国では「元キャビンアテンダントに3年の求刑、4万元の罰金」「タオバオの仮想店舗の××、45万元の脱税」などのニュースがにわかに目立つようになった。
● 上海自由貿易試験区の活用モデルで風穴?  合法的に日本製品を普及させるチャンス
 さて、中国人にとって日本製品は「欲しいけどなかなか手に入らない」というのが実情だが、そこに風穴を開けるビジネスモデルが誕生しそうだ。
 それは、「上海自由貿易試験区」(以下、上海試験区)を利用したインターネット通販事業である。11月2日付の日本経済新聞の一面の記事は、日中の小売関係者に大きな期待を抱かせた。
 これは、伊藤忠商事とタイの華僑財閥チャロン・ポカパングループ(中国での名称は正大集団)が組んで行うインターネット通販事業であり、同記事には、「日本製品を輸入し、保税倉庫に入れ、ここから中国市場に配送するしくみ」で、「上海自由貿易試験区の特徴である貿易手続きの簡素化を利用し、個人輸入に比べて短納期かつ低価格で販売できるようになる」とある。
 このモデルが成功すれば、中国の広い地域で合法的に日本製品が普及することにもなるのだ。
 その一方で、上海試験区にとっても大きな呼び水になる。開業して1年が経つ上海試験区には、いまだ目立ったモデル事業がなかっただけに、期待は大きい。
● 上海試験区側も日本企業側も 手探りでのスタート
 ちなみに、上海試験区とは上海外高橋保税物流園区、上海外高橋保税区、上海浦東空港総合保税区、洋山保税港区の4つのエリアを対象地域とし、貿易の自由化や投資の規制緩和、さらには金融システムの国際化を進めるプロジェクトで、李克強首相主導の「リコノミクス」のひとつとして、昨年鳴物入りでスタートした。
 しかし、目立った改革は進んでおらず、現地では一時期に比べ報道も減少した。しかも、ちょうど1年になろうとする矢先、試験区管理委員会の常務副主任であった戴海波氏が更迭される事件が起こった。同氏は試験区管理委員会のナンバーワンではないが、上海試験区の政策を作った重要人物であるため、現地では「規制緩和のスピードダウンは免れ得ない」と嘆息すら上がった。
 上海試験区は「小さな香港を目指す」という触れ込みで始まり、既存の保税区にさらなる権限を付与し、ビジネスの範囲を拡大させるというものだが、依然、具体的な手続きが不透明なのである。
 これについて、日本貿易振興機構・海外調査部中国北アジア課の日向裕弥氏が示した見解は興味深い。
 「上海試験区側にとっても未経験の試みであるため、頭を悩ませているのが正直なところでしょう。むしろ、『どういう事業をしたいのか』『どの部分の規制緩和が必要なのか』という点について、企業側に提案を求める側面が存在します。日本企業は細則を補う具体的な手続きが出てくることを待っているようですが、これについては、1対1の交渉の中で出てくる可能性が強いのではないでしょうか」
 注目されるこの伊藤忠商事の新規ビジネスだが、本社広報は「現段階では右も左もわからない、詳細はこれから」とコメントするように、試験区も企業もともに暗中模索のようだ。互いに折衝を繰り返し、“走りながら考える”というのが実態なのだろう。
● 日本企業は心中複雑 今回の波には乗っていいのか否か? 
 さて、「日本製品が大人気」というのは、日本企業にとって「心中複雑」というのが正直なところではないだろうか。2011年の福島第一原発の事故で、一斉に日本製品が棚から下ろされた。2012年の反日デモでは日本製品のボイコットが叫ばれ、上海の街では「不買対象品目リスト」までばらまかれた。多くの日本企業が痛い思いをしたことは否めない。
 だが、今、私たちが直面するのは、それとは真逆の現象だ。二国間の政治はいまだ渋い顔を突き合わせているのが現状だが、民間の消費はまったく異なる動きを示し、日本製品を「不人気」のどん底から、「超人気アイテム」へと返り咲かせたのだ。たった2年余りで日本ブランドはその立場を逆転させたが、私たちはこれをどう受け止めたらいいのだろうか。
 上海の某大学で教鞭を執る経済学の教授は、次のようにコメントする。
 「過去の歴史の中で、日本ブランドへのボイコットは何度も繰り返されました。それでも数年経つと(それまでの反日ムードに対して)反発する現象が起こる。しかもそのサイクルは、日本人が想像する以上に速いのです」
 「政治はどうであれ、いいものはいい」――。日本製品の人気の裏には、そんな中国人の合理的な性格もあるようだ。日中ビジネスに紆余曲折はつきものだが、「どん底も数年で回復する」という可能性を織り込めば、今後の事業戦略も立てやすくなるのではないだろうか。

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