新型コロナウイルス感染症を抑え込んだ中国では、経済活動の再開とともに「初出店ブーム」が巻き起こり、日本をはじめとした海外ブランドがさまざまな業態の出店に乗り出している。その過熱する現状をレポートする。(『東方新報』取材班)
店内でホカホカの 日本式弁当を提供
北京の人たちにとって今年6月15日までは、「無印良品」の店でホカホカの日本式弁当を食べながら、北京の地元文化を集めた画集を閲覧するなど、とても想像できることではなかった。
だが、「MUJI無印良品・中国新世代MUJIcom」北京京東店が正式オープンし、このような新しい消費体験が現実のものとなった。
この店は「無印良品」が中国市場で新しい業態を模索するために初めて出店した。中国のEコマース大手「京東(JD.COM)」北京総本部の区画にあり、店舗面積は605.96平方m、利用者が飲食などのサービスを受けられる座席が71席設けられている。
同店の高鶴東(Gao Hedong)店長の話によれば、この店舗の特別な点は弁当などの食品を提供することだという。弁当にはすき焼きなどの和食から、肉炒め、マーボー豆腐などの中華までそろっていて、またダイエットや健康志向のホワイトカラー族は、軽食サラダも選ぶことができる。
「これまで無印良品の店で弁当を食べた経験が無いので、とても目新しくて新鮮な感じがする」「店が静かで落ち着いているので気持ちが良い」など、利用者たちの評価は上々だ。
飲食のほか、「MUJI BOOKS」をテーマにしたエリアを設け、衣・食・住・旅・娯楽・教育の6大ジャンルをカバーする4000冊を超える書籍を提供している。また地元文化との融合のため、例えば「故宮」の風景画集のような北京文化を体現する書籍が充実している。書籍にはQRコードがついた電子ラベルが貼られており、それをスマホでスキャンすれば、購入が可能だ。
また、セルフレジも特徴的だ。通常は客が商品を一点ずつスキャンする必要があるが、この店では買い物かごを置くだけで全ての商品の値段を読み取る。
初出店ブームを支える 2つの要因
「無印良品」のほかにも、日本の雑貨ブランド「LOFT」が上海に中国初出店し、2023年までに上海のほか成都などに6つの直営店を開くという。
また、デザイナーの山本耀司と同名のブランド「ヨウジヤマモト」が四川省成都に上陸を果たした。
このように日本ブランドが中国に続々と集結、初出店している。その中には、中国の消費者がすでに熟知しているブランドまでも、新業態という形で斬新なコンセプトの店を初出店している。
中国のビッグデータサービス企業「中商数据(Dataquest)」の李静雅(Li Jingya)副社長は、こうしたブームについて次のように解説する。
「(初出店で消費を喚起する)『初出店経済』は今、中国の消費分野のホットスポットだ。特に小売業、飲食業のブランドに集中している。また、初出店とは、業界で代表的な知名度を有するブランドが、ある地域で最初に開くことだけではない。伝統ある老舗であっても、業態や経営モデルのイノベーションを通して、新しい概念や顧客体験を打ち出す店も含まれる」
中商数据のデータによると、昨年までに上海では986の初出店があった。
さらに2020年上半期だけで320の初出店と、出店ペースは加速している。海外ブランドが56店を占め、そのうち日本ブランドは13店と、海外ブランドの23%を占めている。
上海や北京などの沿海地区に限らず、内陸の成都でも「初出店経済」の発展は早く、海外ブランドの成都への初出店数は、上海、北京に次いで多い。
成都小売業協会と中商数据が合同で発表したデータによると、19年に成都で初出店したブランド店舗は473店に上る。20年上半期で成都に初出店したのは122店で、うち中国大陸初出店は6店、大陸西部初出店は4店、西南地区初出店は32店、成都初出店は80店だった。
李副社長によれば、初出店ブームの背景には2つの要因があるという。
1つ目は、中国の経済成長における消費への依存度が増加しており、政府から民間まで皆ブランドの初出店、特に海外ブランドの初出店の呼び込みに強い意欲を示していること。
2つ目は、中国人の消費力が増強していることだ。特に80年代以降の世代は、海外文化の受容に寛容で、また、ブランドに対する認知度と忠誠心が高い。
さらに今年は、外資による中国への投資に関する新たな基本法である「外商投資法」施行の初年度に当たる。外資に対する「ネガティブリスト」の大幅縮小など、外資の対中投資に対する条件が緩和されたこともあり、今後、さらに海外ブランドの初出店が増えることになりそうだ。
競争が激化する中で 新たな顧客体験を提供できるか
中国に進出する海外企業にとって「初出店経済」ブームはチャンスではあるが、一方で難しさもある。
「無印良品」中国本部の責任者は「中国は巨大な市場だが、市場開拓には一定のリスクが存在する。新型コロナの感染拡大時、中国各地での厳格な隔離政策により中国の供給工場が操業停止するなど、サプライチェーンの問題が露呈した」と、中国でのビジネスの難しさを語る。
また、「無印良品」が2005年に初めて中国市場に参入した時は、「プチ高級ブランド」という位置づけで、中産階級からの支持を獲得した。しかし、多くの「プチ高級ブランド」が中国に進出するのに伴い、もはや「独り勝ち」できる状況ではなくなっている。
だが、「無印良品」中国本部の責任者は、「中国の感染症抑え込みの成功で、工場の全面的な生産復旧が果たせた。政府の援助政策も加わり、中国の市場成長とともに、日本企業にとって依然としてチャンスが存在する」という。
実際、日本製品の品質などへの評価は依然として高い。
無印良品の顧客からは「無印良品のメガネ拭きペーパーを買ったけれど、1パックに14枚入ってわずか数元(日本円で約数十円)、まだ、これより良い物は見つかっていません」「無印良品のシャツの最後の一つのボタンは触った感触が違います。これはボタン掛けの時に、触った感触で最後まで掛け終わったことが分かるようになっているのです」などの声が少なくない。
前出の李副社長は日本ブランドが人気な理由の一つとして「中国の消費者のニーズが多様化する中、日本の『職人文化』が育んだ『精緻』という理念と文化の伝承が、多くの中国人に受け入れられている」と見ている。
こうした日本製品のブランド力を生かし、さらに新業態やサービスでいかに魅力的な顧客体験を提供できるか。それ次第で、日本企業は中国でさらなる成長が期待できるだろう。
※『東方新報』は、1995年に日本で創刊された日本語と中国語の新聞です。