(花園 祐:在上海ジャーナリスト)
乗用車市場信息聯席会(以下「乗聯会」)の発表によると、中国の2019年第1~3四半期(1~9月)におけるライトバンを除いた狭義の乗用車累計販売台数は、前年同期比8.6%減の1478万台でした。9月単月の販売台数も前年同月比6.4%減の178万台となりました。
中国の自動車市場は、28年ぶりに通年でマイナス成長を喫した昨年(2018年)に引き続き、縮小に歯止めがかからない事態を呈しています。
また中国政府の支援を受けて急拡大してきた新エネルギー車(以下、新エネ車)市場も、第3四半期に入ってからついに前年割れをみせるなど、中国自動車市場全体で不安な様相を見せています。
今回は、こうした激震する中国自動車市場の現況を報告します。
消費活況期でも市場はマイナス成長
前述の通り、中国の9月単月における狭義の乗車販売台数は、前年同月比6.4%減の178万1411台でした。
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 中国での乗用車(狭義)販売台数推移(2019年1~9月)
今年6月に4.7%増で一度盛り返したものの、それ以外の月は昨年7月以降ずっとマイナス成長が続いており、反転成長にはなかなか至れずにいます。
特に9月の実績に関しては、市場から落胆する声が聞かれました。中国では9~10月の期間は「金九銀十」と呼ばれる消費活況期に当たります。そんな時期にもかかわらず、需要が上向く気配がまったくなかったからです。
一部メディアからは、10月は建国70周年記念式典など国家イベントが重なっており、販売台数も好転する可能性があるとの指摘がありました。けれども、こうした見方は楽観的すぎると筆者には感じられます。
車が売れない原因は住宅か中古車か?
では一体なぜ、これまで急成長の続いてきた中国自動車市場が昨年から縮小し続けているのでしょうか。
乗聯会の報告書では、自動車販売不振の原因は「住宅価格の高騰」にあると指摘しています。
中国では現在も全国各地で住宅価格の高騰が続いています。住宅価格の高騰によって家計支出に占める家賃やローンの割合が高まった結果、自動車への消費が控えられるようになったというわけです。
特に所得の低い中西部地域における住宅価格高騰が激しく、これにより、低価格車両を製造する中国メーカーが直撃を受けたとしています。
一方、ある業界関係者は別の見方として「中古車市場の発達こそが真犯人」と指摘しています。
中国では近年、中古車価格の査定基準やオンライン取引プラットフォームが整備され、中古車市場が急速に拡大しました。2018年には取引台数が前年比11.5%増の1382万台を記録。こうした中古車市場の拡大によって新車市場が縮小しているという分析も出ています。中古車市場の拡大が新車市場縮小の一因になっていることは、おそらく間違いないでしょう。
東風本田が大躍進
第1~3四半期におけるメーカー別販売台数を見ると、上位はいつも通り独フォルクスワーゲン(VW、中国名「大衆」)系列の一汽大衆、上汽大衆が1位と2位、米ゼネラルモーターズ(GM、中国名「通用」)系列の上汽通用が3位という並び順になっています。
しかし米中貿易摩擦の影響からか、上汽通用の販売台数は前年同期比14.2%減と大きく落ち込みました。
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 メーカー別・中国乗用車販売台数(2019年1~9月、上位15社)
日系メーカーでは、東風日産(1.0%減)と一汽豊田(0.3%減)が微減となった一方、東風本田(25.2%増)、広汽本田(8.8%増)、広汽豊田(15.7%増)が市場の逆風にかかわらず高成長を保ちました。特にホンダ系列の東風本田の急増ぶりは、中国メディアからも「ダークホース」と評されるなど、大きな驚きとともに受け止められています。
東風本田の躍進の背景としては、主力セダンの「シビック」が新規ユーザー、既存ユーザーを問わず好調であることと、一時はリコール問題で販売の滞っていたスポーツタイプ多目的車(以下、「SUV」)「CR-V」の人気に再び火がついてきたことなどが指摘されています。
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 2019年4月に完成した湖北省武漢市の東風本田・第三工場(ホンダのホームページより)
シルフィとラヴィーダがセダン首位争い
次に車種別に見ていきましょう。中国で売れている乗用車はセダンとSUVです。
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 中国での車種別自動車販売台数(2019年1~9月)
第1~3四半期におけるセダン、SUVの車種別販売台数を見ると、東風本田の躍進を裏付けるように、「シビック」が前年同期比17.7%増、「CR-V」が115.6%増という高い成長率を記録しています。
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 中国でのセダン販売台数順位(2019年1~9月)
セダンは前年に引き続き東風日産の「シルフィ」と上汽大衆の「ラヴィーダ」が激しい首位争いを繰り広げています。
シルフィは昨年は年間1位でしたが、今のところ2位に後退しています。業界関係者はシルフィについて、「価格の低さによるコストパフォーマンスが売りのモデルであり、粗利は高くない」と言い、販売台数こそ多いものの「それほど儲かる車ではない」と指摘しています。
筆者の目からしても、ホンダの「シビック」、トヨタの「カムリ」などの中高級車と比べ、日産のこのクラスの車種は見劣りする感が否めません。日産がどんな次の一手を打つのか密かに注目しています。
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 中国でのSUV販売台数順位(2019年1~9月)
新エネ車、とうとう3カ月連続の前年割れ
自動車市場全体の縮小もさることながら、今季、最も市場関係者を慌てさせたのは、「新エネルギー車」市場の腰折れでしょう。
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 中国での「新エネルギー車」販売台数推移(2019年1~9月)
中国の新エネ車販売台数は、政府の大々的な購入支援もあって、ここ数年間、急拡大を続けてきました。しかし今年6月に購入時の補助金の多くが打ち切られて以降、前年同月比で7月が4.8%減、8月が15.8%減、9月に至っては34.2%減と、3カ月連続で前年割れしています。
なお6月は、補助金打ち切り前の駆け込み需要もあってか同81%増と急増しており、消費を先食いした感があります。
中国自動車市場全体が落ち込み続ける中、新エネ車にはその穴を埋める役割が期待されていました。それだけに、市場関係者からは今季の結果に落胆する声が聞かれます。また中国政府も、新エネ車市場の補助金からの独り立ちを期待していただけに、今後の環境政策になんらかの影響が出るかもしれません。
打撃を受ける電池メーカー
世界最大の新エネ車市場の腰折れとあって、その影響は川上業界にも波及しつつあります
動力電池最大手の寧徳時代新能源科技有限公司(CATL)は第3四半期業績予測において、すでに最大20%の減益見込みを発表しています。同社に限らず、新エネ車市場とともに近年急拡大を続けてきた電池業界にとって、今季の新エネ車市場の腰折れは今後大きな打撃となることは間違いないでしょう。市場からは、中国政府の新たな政策追加を期待する声も出ています。
昨年の楽観的な予測とは裏腹に、中国自動車市場の縮小は歯止めがかからない状態が続いています。今後市場は反転するのか、それとも落ち込み続けるのか、環境車政策はどうなっていくのか。さらなる注視が必要となってくることでしょう。