中国への対峙に結束を クアッドからファイブ・アイズ、そして新日英同盟へ

中国による沖縄県・尖閣諸島への攻勢強化は、自由社会の「自由・民主主義」「法の支配」「基本的人権の尊重」という普遍的価値を踏みにじるものだ。ウイグル族への「ジェノサイド(集団殺害)」もそうだが、自由社会は中国との価値をめぐる「戦争」に直面している。結束を強化して中国と対峙(たいじ)しなければならない。

 日本と米国、オーストラリア、インドによる経済・安全保障に関する枠組み「QUAD(クアッド)」の外相会合が18日、オンラインで開催された。クアッドは、安倍晋三前首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想に、ドナルド・トランプ前米大統領が共感して発足した協議体だ。中国の軍事・経済的影響力拡大に対抗することを目的とする。

 ジョー・バイデン米政権での継承が懸念されていたが、1月28日の日米首脳電話会談で、バイデン大統領は菅義偉首相に継承を伝えていた。翌29日には、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、中国への厳然とした対応を強調し、クアッドによる協力が「インド太平洋地域における米政策の基礎となる」と述べていた。4カ国の外相会合はバイデン政権発足後初となる。

 クアッドには、英国の参加の可能性が浮上している。英国政府は、香港問題やウイグル族へのジェノサイドをめぐって中国への対抗姿勢を鮮明にしている。英国は、日本が主導する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を正式申請し、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中核とする部隊を日本の南西諸島周辺に長期派遣することを予定している。

 英国と米国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドの5カ国が、安全保障上の機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」への日本の参加も望まれている。クアッドが、英国が加わった「QUINTET(クインテット=5人組)」に発展すれば、自由社会の対中抑止力は格段に増す。

 自由社会の連携が進み、日本が一定の位置を占めているのも、安倍前政権での安全保障改革で国際的信用度が高まったことが大きい。国内では猛烈な批判にさらされたが、特定秘密保護法の制定や集団的自衛権の限定行使を可能にしなければ、クアッドもファイブ・アイズへの参加もあり得ない。安倍政権は大きな戦略を描き、自由社会結束の基礎をつくった。

 今後は、新・日英同盟の締結やクアッドの同盟化も必要となろう。そのためには、国内体制の整備が不可欠だ。自衛隊が海上保安庁と同様に領海侵入などに対処できる「領域警備法」整備は言うまでもない。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」するとして、自国防衛の主体性を放棄している現行憲法の改正が欠かせないことも再認識すべきだ。

 ■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院法学研究科修士課程修了、政治学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専攻は憲法学。皇室法制、家族法制にも詳しい。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学国際学部教授。内閣官房・教育再生実行会議有識者委員、山本七平賞選考委員など。法制審議会民法(相続関係)部会委員も務めた。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)、『公教育再生』(PHP研究所)、『明治憲法の思想』(PHP新書)など多数。

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