中国のバブルが崩壊した場合、日本への影響はどのような形で生じ、どの程度のものとなるだろうか?
不良債権化する可能性が高いのは理財商品だが、日本の個人や金融機関のこれへの投資はほとんどないだろう。したがって、それが不良債権化しても、直接の影響を受けることはないだろう。
これは、リーマンショックの時と同じ状況だ。日本の金融機関の、モーゲッジの証券化商品への投資はほとんどなかった。だから、直接の影響はなかった。当時の経済財政担当相が「蜂がさした程度」と言ったのもそのためだ。少なくとも2008年の夏頃まで、日本では米国の金融危機が対岸の火事だと思われていた。
しかし、リーマンショックは、経済の屋台骨を揺るがすほどの甚大な影響を日本に与えたのである。影響は、貿易を通じて生じた。自動車を中心として日本の対米輸出が急減し、結果的には戦後の日本で最大級の経済危機になったのである。
鉱工業生産指数(10年=100)で見ると、リーマン前のピークである08年2月には117.3に達していたが、09年2月には76.6にまで低下した。その後回復したものの、13年7月の指数は97.7だ。つまり、ピークより17%ほど低い水準である。
前回述べたように、中国の不良債権の規模は米国金融危機の場合より大きくなる可能性がある。したがって、バブルが崩壊した場合の日本経済への影響は無視できないだろう。
中国のバブルは、ある意味では米国のバブルの継続だ。米国でのバブル崩壊に対応して中国が景気刺激策を取り、その結果が今の状態だからだ。つまり米国住宅価格バブルに端を発した21世紀の世界的経済変動は、いまだ収束していないと言える。
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■ 中国景気刺激策終了で対中輸出が減少
中国の場合も、日本への影響は、中国への輸出が減少することを通じて生じるだろう。実は、これはすでに生じていることだ。これについて以下に述べよう。
リーマンショック後、米国への輸出が激減した反面で、中国に対する輸出は顕著に増加した。これは、中国政府が、08年11月にGDPの16%に相当する4兆元(約57兆円)という空前規模の景気刺激策を取った結果、公共事業、住宅建設、都市開発事業などが爆発的に増加したからだ。そして対中輸出の増加が、日本経済がリーマンショックから立ち直るうえで重要な役割を果たした。
ところが、12年6月頃から中国への輸出は停滞し、減少した。12年11月頃から円安が進行したが、それにもかかわらず輸出数量は減少を続けたのである。
以上の状況を見るには、ドル建て輸出の推移を見るのがよい。為替レート変動の影響が除かれるからだ。05年以降の推移は、図に示すとおりである。
日本のドル建て輸出総額は、リーマンショック後に大きく落ち込んだが、その後回復し、11年にはリーマンショック前のピークをやや上回る水準にまでなった。こうなったのは中国に対する輸出が急増したからだ。05年には対中輸出は対米輸出の約60.0%しかなかったが、リーマンショック後に逆転し、11年には対米輸出より28.5%ほど多くなった。
ところが輸出総額は12年には減少した。12年は、11年の大震災からの回復の年だった。また、12年の11月以降は円安が進んだ。それにもかかわらず輸出総額が減少したのは、対中輸出が対前年比で10.4%ほど減少したからだ。対米輸出は増加を続けているので、12年には対米輸出と対中輸出がほぼ同額になった。
建設用・鉱山用機械について見ると、10年は18.3億ドルだったが、12年には7.3億ドルと、4割の水準にまで減少した。大規模景気刺激策が一過性のもので、それが終了したことを示している。
以上で見た状態は、最近にいたるまで続いている。すなわち、13年7月の対中輸出額は11.2兆円であり、前年同月比で12.0%の減となっている。円安にもかかわらず、ドル建て輸出額がこのように大きく落ち込んでいることが深刻である。
これが10~11年頃の水準に戻るのは期待しにくい。これだけでも日本経済にとっては痛手だ。将来これがさらに減少するとすれば、日本経済にとってさらに大きな痛手だ。
中国の経済成長率が減速していることから、中国政府が再び大型の景気刺激策を取るだろうとの見方もある。しかし、前回の刺激策が住宅価格バブルや不良債権問題を引き起こしたことを考えると、再び同規模の刺激策を取るのは難しいのではないだろうか。
■ 中国現地活動は2割程度のウエート
日本経済への影響は、輸出を通じたものだけではない。もう一つの問題は、中国に進出している日本企業の活動に影響があることだ。
日本企業の中国での活動がどの程度のウエートを持つかは、経済産業省の「海外事業活動基本調査」で見ることができる。それによると、11年度において、海外現地法人数は1万9250で、売上高は約182兆円(うち製造業は88兆円)である。そのうち、中国は現地法人数が5878で売上高が約35兆円(うち製造業は21兆円)だ。したがって、海外現地法人中の中国の比重は、現地法人数で3割、売上高で2割ということになる。本社企業の売上高は343兆円(うち製造業が187兆円)であるから、海外進出している企業に限っていえば、売上高で見て中国の比重は本国の1割ということになる。
この比率は、もちろん業種によって異なる。中国での経済活動はどちらかと言えば製造業にウエートがある。進出の形態はさまざまなので、影響もそれによって異なるだろう。また、企業によっても異なる。
中国のウエートが比較的高いと言われる日産自動車を見ると、12年度のグローバル販売台数は491万であった。内訳は、日本国内が64.7万、中国が118万、米国が113万だった。このように、中国のウエートは米国より高く、国内の2倍近くになっている。
中国の経済が混乱すれば、中国での企業活動は直接に影響を受けるだろう。かなりの影響があることは、12年9月の尖閣諸島国有化による日中関係悪化で日本車離れが進んだ状況を見ると、明らかだ。売り上げが減るだけでなく、労働争議などもありうるだろう。日本全体で見ると、国際収支の所得収支が影響を受ける。
ここでの基本的な問題は、「中国に留まるべきか? それとも、中国を捨てて、他の地域(とくにASEAN)に移転するか? 」ということである。
この選択は、容易ではない。製造業の場合、サプライチェーンが整備されているか、現場で指揮をとりうる中堅技術者が存在するか、等々の条件に依存する(拙著『日本式モノづくりの敗戦』、12年、東洋経済新報社を参照)。また、「ルイスの転換点に代表される中長期的な中国経済の構造変化は本質的なものなのか? 」という問題もある。そうした判断条件の中で、「不良債権問題は短期的に克服しうる問題なのか」は重要な位置を占める。(週刊東洋経済2013年9月28日号)