中国企業に「フッ素化合物」情報漏えいか、逮捕の産総研研究員は「国防7校」兼任時期も

国立研究開発法人「産業技術総合研究所」(茨城県つくば市、産総研)で行った研究の成果を中国企業に漏えいしたとして、警視庁公安部は15日、産総研の主任研究員で、中国籍の権恒道容疑者(59)(つくば市)を不正競争防止法違反(営業秘密の開示)容疑で逮捕した。公安部は、漏えいされた技術情報が中国企業に利用された可能性があるとみて解明を進める。

 産総研は最先端技術を研究する国内最大の公的研究機関で、2021年度の運営費交付金は633億円に上る。多額の公費が投じられる国の機関から中国への情報流出は極めて異例で、国の先端技術を守る経済安全保障の観点からも大きな問題となりそうだ。

 発表によると、権容疑者は18年4月13日夕、産総研で自身が研究に参加している「フッ素化合物」に関する研究データを中国企業にメールで送り、産総研の営業秘密に該当する情報を漏えいした疑い。

 捜査関係者によると、中国企業は化学製品製造会社で、日本国内にも代理店を置いている。漏えいされた情報は、フッ素化合物の合成に関わる先端技術で、変圧器などに使われる「絶縁ガス」の製造に用いられ、地球温暖化対策にも有効性があるという。

 権容疑者は02年4月から研究員として産総研で勤務していた。一方で、中国軍とつながりが深いとされる「国防7校」の一つである北京理工大学の教職を兼任していた時期もあり、公安部が今後、流出先企業との関係や、流出の経緯などについて捜査を進める。

 先端技術などを巡っては近年、国外への流出が問題となってきた。20年にはソフトバンクの元社員がロシアの外交官に電話基地局に関する情報を漏えいしたとして不正競争防止法違反で逮捕され、有罪判決を受けた。21年にも、スマートフォンの技術に関する機密情報を中国企業に漏えいしたとして積水化学工業の元研究員が同法違反で在宅起訴され、その後、有罪判決を受けている。

 こうした技術情報の流出を防ぐため、政府は現在、「セキュリティー・クリアランス(適性評価)制度」と呼ばれる新たな仕組みの導入を目指している。経済安全保障分野などで機微情報に触れる民間人らの身辺調査などを行うもので、来年の通常国会への関連法案提出を視野に制度設計を進めている。

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