家電の世界市場で、中国メーカーが存在感を高めている。薄型テレビでは、中国の主要電機メーカーの世界シェアが2009年に2割近くに迫り、4年前の3倍以上に飛躍した。中国メーカーの強さは中国内にとどまるものの、低価格を武器に海外市場も目指し始めた。ソニーやパナソニックなどの日本メーカーは人口減などで需要の先細りが確実な国内市場から、中国を含む新興国市場へのシフトを強めているが、当面のライバルである韓国メーカーに負けず劣らない存在として、中国メーカーが立ちはだかることになりそうだ。
≪ 思いもよらぬ“異変”≫
「出展ブースで目立っていたのは、韓国よりも、創維集団(スカイワース)や海爾集団(ハイアール)といった中国の電機メーカーだったね」
今年1月、世界最大の米家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」を視察したソニーのテレビ事業関係者は、思いもよらぬ“異変” に驚いたという。
これまでの見本市では、サムスン電子やLG電子など韓国メーカーのブースが話題を呼んでいた。日本メーカーを抜き、世界トップの座を奪い取った今の地位を誇示するかのような光景だった。中国勢の見本市での台頭は、海外進出に本腰を入れ始めたことを裏付けるものだ。
≪「圧倒的な競争力」≫
中国メーカーの強みは「低コストで豊富な労働力を背景とした圧倒的な価格競争力にある」(日本貿易振興機構)。農村での家電製品購入に補助金を出す「家電下郷」などの消費刺激策による内需拡大も加わり、企業規模の拡大につながっている。
米調査会社のディスプレイサーチによると、2005年に5%だった中国主要6社合計の世界市場でのシェア(出荷台数ベース)は、09年に約18%へ急伸。自国市場で8割弱のシェアを押さえたことが原動力となった。
今はそれぞれ35~40%程度の世界シェアを占める日本、韓国勢には及ばないが、需要が旺盛な中国の液晶テレビ市場の伸びは著しい。10年に西欧、11年には北米を抜き4420万台と世界最大の市場になる見通しだ。
■地域密着重要 日本勢は成功例学べ
中国の電機メーカーがスケールメリットを生かした価格優位性で、アジア諸国に打って出る公算は大きい。実際、TCL集団は今年1月、安定調達を狙って中国国内で液晶パネルの工場建設に着手。先端品の生産を目指し技術導入を急いでいる。
これに対し、韓国メーカーも危機感を募らせている。サムスンの成長の立役者である李健煕(イ・ゴンヒ)氏が3月に会長職に復帰したのも、中国メーカーの台頭を意識してのことだ。
新興国市場に活路を求める日本メーカー。中韓勢に対抗するには、国内外の拠点間における戦略的な連携や、官民一体となった取り組みも不可欠になる。(佐藤克史)
≪ITに詳しい坂村健・東大教授≫
日本の電機メーカーのお手本となるのは米IBMと韓国サムスン電子。両社は徹底的に現地化を進め、地域に根付いて成功している。日本メーカーも中国などの新興国で本気でモノを売りたいなら、考え方を改める必要がある。(現地メーカー並みの)低価格品を投入して売り上げを稼ぐ戦略は大事だが、本当の差別化にはなっていない。産業育成や雇用、文化といった面もとらえ、自分たちは現地で役立つメーカーという印象を与え、その上で、皮膚感覚で生活スタイルを把握するぐらいの姿勢で臨まなければ、現地で受け入れられる商品を開発できないのではないか。
これまでやっていなかったとは思わないが、今まで以上に市場分析の重要さが増してくる。出先の現地法人に権限を与え、ある程度自由にやらせる大胆さが不可欠。また中国企業の技術水準は格段と進歩している。技術を奪われるという古い考え方を捨て、中国メーカーと共同開発するのも手ではないか。