中国水産物禁輸で…8割依存の青森ホタテ苦境<廃炉と海>

東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を受け、中国が日本からの水産物の輸入を全面的に停止したことで、青森県産ホタテの販路が急速にしぼんでいる。国、地域別で、輸出量の大半を占める中国との取引が宙に浮くため、水産業者への影響は深刻だ。(青森総局・伊藤卓哉、今愛理香)

加工業者「先が見えない」 国内値崩れの可能性も

 8月31日、青森市であった宮下宗一郎知事とホタテ加工業者の対話集会。事業者からは「かつてない苦境」とのため息が漏れた。

 水産品の生産・加工を手がける渡辺水産(むつ市)は、処理水の放出が決定した段階で、ホタテ約100トンの中国への輸出を断念せざるを得なかった。年間で輸出する数千トンのうち中国向けが8、9割を占める。渡辺大起常務は「先が見えず、本当に困った。一企業だけで解決できる問題ではない」と肩を落とす。

 業者の悩みは尽きない。輸入が認められずに倉庫で山積みとなったホタテだけでなく、コンテナの積み戻しも発生し、保管場所の確保が難しいのが現状だ。

 国内で値崩れが起こる危機感もある。水産加工会社「山神」(青森市)の穐元美幸専務は「最大産地の北海道で中国への輸出がストップし、ホタテが国内であふれている状況。相場がどこまで下がるかも分からない」と表情を曇らせる。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)青森によると、2022年の県産ホタテの輸出量は8826トン(販売額約44億3520万円)。うち中国向けは7526トン(同約29億2400万円)で、重量ベースでは約85%となっている。

東南アジアやEUへの販路拡大必要

 糸長真知所長は、昨年1月に発効された日中韓などが加盟する地域的な包括的経済連携(RCEP)協定で、中国向けのホタテ貝が早くて11年後に関税が撤廃されると指摘。「輸出を本格化させようとしていた業者にとって協定は追い風で、中国シフトが進む背景になったのではないか」と推測する。

 ある加工業者の幹部は「中国との取引はスピーディーに決まり、量も他国と桁違いだった。そこに甘え、別の販路開拓が遅れたのは否めない」と打ち明ける。

 中国一辺倒の輸出は、大きな危険性もはらむことが今回浮き彫りになった。業者は東南アジアや欧州連合(EU)などで販路を拡大し、リスク分散を図る必要に迫られている。

 水産加工会社のマルイチ横浜(野辺地町)の横浜充俊社長は「中国というマーケットを失っても、販売、消費ができる販路を拡大しないと青森の産業を守れない」と強調。「県、国と一致団結して輸出を増やしていきたい」と述べた。

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