今年7~9月期の国内総生産(GDP)成長率が6・9%だったとする中国当局の発表に、世界のメディアやエコノミス トが一斉に疑いの目を向けている。折しも習近平国家主席は19日夜(日本時間20日未明)にロンドン入りし、5日間の英国公式訪問を開始したばかりだが、 その英国からも「中国の統計は幻想」「実際の成長率は3%」と批判する声があがっている。

中国統計局の盛来運報道官はGDPを発表した19日の記者会見で「成長率が(15年の政府目標の)7・0%を下回ったといってもわずか0・1ポイントだ」と強気の姿勢を示した。

確かに6・9%というのは“絶妙”な数字だった。6月以降、株価が暴落し輸出入が大幅減となるなか、4~6月期までの7・0%を維持するというのは不自然すぎる。一方で市場の事前予想の中心値である6・8%を上回るという着地となった。

このGDP統計について「率直に言うと信じていない」と明言したのは、英独立系調査会社ファゾム・コンサルティングのダニー・ギャベイ氏。中国のGDP発 表を受けて英BBCラジオの番組に出演したギャベイ氏は、「疑わしいほど目標(7%)に近いということだけでなく、(GDP統計が)著しく早く作られ、ほ とんど改定されない」と信じるに値しない理由を挙げた。

人口13億人を超える中国で、9月末までの全国の統計が20日足らずで算出されるというのも、統計の信憑性が疑われる一因となってきた。同期間のGDP速報値発表は米国では今月29日、日本は11月16日だ。

前出のギャベイ氏が重視するのが、いわゆる「李克強指数」だ。李克強首相が遼寧省の党書記時代の2007年、米国の駐中国大使に「GDPは人為的操作が加 えられるが、鉄道貨物輸送量は運賃収入を元にしているので、ごまかしがきかない」などとして、鉄道貨物輸送量や電力使用量、銀行融資を参考にしていると明 かしたことが内部告発サイト「ウィキリークス」で暴露され、これらのデータを反映させた同指数は有名になった。

李克強指数を参考にすると 「実際の成長率は3%だ」と言い切ったギャベイ氏。さらに、米国や日本などで不動産バブルが崩壊したのと同様の事態が中国でも発生するとしたうえで、 「ハードランディング(墜落)の途中でまだ底ではない。中国の銀行にとって審判の日が訪れるだろう」と予言した。

こうした発言は英メディアで広く報じられ、習主席を手荒く歓迎することになった。

英インディペンデント紙(電子版)は「エコノミストが中国のGDP統計がフェイク(偽物)かもしれないと思う理由」とした記事の中で、ギャベイ氏の発言を 紹介するとともに、英調査会社の中国担当エコノミストの「公式のGDPが、中国経済の適切な測定器とは思えない。割り引いて考える必要がある」としたコメ ントを報じた。

米ウォールストリート・ジャーナル紙(電子版)も「中国のGDPの数値が疑いの種に」と題した記事で、「7~9月期の6・ 9%という数字で、1~3月と4~6月期の7・0%の信憑(しんぴょう)性も問題になる。楽観的になるのは難しい」「減速がさらに1、2年続くだろう」 「インフラ支出で経済をサポートする中国政府の努力は目算が外れている」とした複数のエコノミストの見解を報じている。

習主席の英国訪問 で、両国の最大関心事は経済関係の強化だ。中国マネーを景気浮揚に生かしたい英国のキャメロン首相は近年、人権問題への批判を封じ、中国主導のアジアイン フラ投資銀行(AIIB)にもいち早く参加を表明。こうした態度に国内で批判が強いほか、米国も懸念を抱いている。

ただ、本当に中国経済を頼みにできるのか。19日にGDPとともに公表された9月の主要製品などの生産をみても、自動車が前年比4・7減、発電量が同3・1%減、携帯電話も前年割れに転じた。

英エコノミストの重鎮でオックスフォード大中国センターアソシエイトのジョージ・マグナス氏はツイッターで警鐘を鳴らした。

「金融セクターの悪化で(GDPは)0・5%押し下げられており、6・5%以上になるというのはファンタジー(幻想)だ」