中小の独創性 大手触手 スピード重視 買収合戦過熱

【展望2011】
 独創的な技術を武器とする国内外の中小・ベンチャー企業との連携を、大手企業が加速させている。電気自動車(EV)やバイオ、自然エネルギー、福祉…。成長分野に素早い攻勢をかけたい大手と、景気回復が足踏みする中で安定した研究開発資金を確保したいベンチャー側の思惑が一致した格好だ。グローバル化の進展で、海外勢との競争に勝つにはスピード重視型の経営が不可欠になっており、ベンチャーの活力を取り込む動きは2011年も拍車がかかりそうだ。
 ◆大和ハウスがロボ
 「自分の意思に沿って体が動く」「リハビリの意欲が増してきた」。装着型の「ロボットスーツHAL」を導入した全国の福祉施設から、リース販売を手がける大和ハウス工業にこんな声が相次いで届いている。
 ロボットは筑波大学発のロボット関連ベンチャー、サイバーダイン(茨城県つくば市)が開発した。筋肉を動かす脳からの信号を皮膚の表面で検出し、各部のモーターが体の動きをサポートする。大和ハウスは病院や介護施設などの施工を通じ、福祉分野がこれから成長すると判断。HALに着目し、08年から累計で約100台を納めた。
 10年11月には、産業技術総合研究所から生まれたベンチャーの知能システム(富山県南砺市)と提携。人に安らぎ感をもたらす機能を持つアザラシ型ロボット「パロ」の販売を始めた。導入した欧米の病院などでは介護者の負担軽減にも役立っているといい、大和ハウスの田中一正・ロボット事業推進室室長は「よいものがあれば今後もやっていく」とベンチャーとの連携拡大に意欲を示す。
 ◆海外企業に出資も
 2010年は大手とベンチャーの連携が相次いだ。製薬2社が国内のベンチャーと手を結んだほか、ソニーが細胞分析機器メーカーの米アイサイトを買収し、トヨタ自動車やパナソニックがEVの米テスラ・モーターズに出資したように、国境を越えてベンチャーが存在感を発揮するケースも少なくない。ベンチャーキャピタル大手、ジャフコの伊藤慶紀・VA3部長は「外部との提携を大手企業から打診されるケースが目立って増えてきた」と話す。
 飽和感が漂う国内市場での新たな収益源や海外市場の獲得に向け、新規事業の迅速な立ち上げは大手企業にとって喫緊の課題となっている。新規事業は「とりわけ馬力が求められる」(伊藤部長)だけに、革新性と機動力が持ち味のベンチャーに触手が伸びるという構図だ。
 「大手がベンチャーを買収する動きが加速する」と予測するのは、法大大学院の坂本光司教授。立ち上がり始めた分野で成功するにはスピード経営が重視されるうえ、大手が業績回復で手元資金に余裕が出てきたことも背景にある。「景気の悪さから資金の供給源が細くなっている」(前田正博・中小企業基盤整備機構理事長)というベンチャー側の事情も大きい。
 ただ、成長を続ける中国企業のパワーは提携・買収競争でも侮れない。有望なベンチャー取り込みをめぐる競争が世界規模で激しさを増し、電機・機械分野などで高度な技術力を持つ日本の中小企業を狙う動きも顕在化しそうだ。(中小企業取材班)
 ≪川村雄介・大和総研専務理事≫
 ■技術流出防ぐ政策不可欠
 2011年はマクロの経済環境が改善するとみられ、結果として株価への上昇期待が高まり、これまで慎重だった企業も新規株式公開(IPO)への機運を高めてくるだろう。ベンチャーをめぐる動きも活発化し、大企業による買収や取引関係を強化する動きも強まりそうだ。
 バブル崩壊後、中小企業の多くは厳しい経営環境が続き、経営者が事業の承継をあきらめるケースも増えている。少子高齢化に伴う後継ぎ不足という中期的な課題にも、中小企業は直面している。
 こうした状況に着目した中国企業が、技術力のある日本企業を取り込もうと、マネーの力を武器に攻勢をかけてくることも考えられる。卓越した技術力があり、継続されるべき事業を国内から消滅させてはならず、救済する仕組みを政府が音頭を取って設けることは欠かせない。その際には単なる救済ではなく、中小企業の集積を図るとともに、競争を促して成長力を高める工夫が必要だ。

タイトルとURLをコピーしました