「動画広告=テレビCM」だった時代、動画をマーケティングに取り入れられるのは予算が潤沢な大企業だけだった。しかし、YouTubeのような動 画共有サイトが登場し、低予算から出稿できるオンライン動画広告が普及してきた。加えて比較的安価に動画を制作できる環境も整い、今や大企業だけでなく、 中小企業も動画マーケティングに取り組む流れができている。
2014年の国内調査では、大手よりも中小企業の方が積極的に動画施策に取り組んでいるという結果も出ていて、Facebookでも2015年9月だけで150万以上の中小企業が動画コンテンツや動画広告を配信しているという。
目的設定から始まる動画制作
ただし、動画マーケティングが流行っているという理由だけで、やみくもに動画を制作し、YouTubeにアップロードしたところで、期待する成果は出ないだろう。
動画マーケティングのスタート地点であり、かつもっとも重要なポイントが、ターゲットと目的を明確にすることだ。ターゲットはその商品を欲しいの か、それとも存在さえ知らないのか、などにより、訴求すべきメッセージは異なる。すなわち商品とターゲットの”距離感”に応じた動画コンテンツを企画する ことが重要なのだ。
そこでターゲットの状態に応じ、動画マーケティングの目的を「興味」「理解」「納得」「判断」「購入」の5段階に分類し、各目的を達成する適切なコンテンツの種類を考えてみよう。
(1)興味(商品に関心を持ってもらう)
興味喚起を目指す上では、動画自体がターゲット層の目を引くパワーを持つ必要がある。その一例がブランディング動画やティザー動画、セール告知動画 などだ。ブランディング動画は商品自体の紹介ではなく、一見して広告には見えないストーリーでブランドへの好感度をアップさせる働きを持つ。さらに、評判 を得て話題化すると、バイラル動画として一気に拡散し、ターゲット層を含む大多数の人に届く可能性もある。780万回再生(11月時点)を超えたC.C. レモンの「忍者女子高生」などはその代表例だ。
(2)理解(商品を知ってもらう)
興味を持っているターゲットに対しては、商品の魅力やメリットを端的に伝える動画を通して理解促進を図るのが有効だ。このタイプの動画では、情報を 盛り過ぎずに、訴求ポイントを絞ることが大切。詳細なスペックを伝えたければ、商品紹介のWebページなどへの導線(CTA:コールトゥアクション)を動 画内に用意しよう。
(3)納得(商品の価値を知ってもらう)
理解を深め、納得を得るためには、さらに一歩踏み込んだ情報を提供する必要がある。他社商品との比較材料となる数値データや、ターゲット層の具体的なニーズや課題に応える商品であることを示すことで、共感を得て、距離を近づけることができるだろう。
(4)判断(購入を判断してもらう)
購入判断を後押しするコンテンツとして勧めたいのが、「お客さまの声」動画だ。口コミの影響力が大きい今の時代、他のユーザーのリアルな声がさまざ まな不安要素を払拭し、背中を押してくれる。動画マーケティングにもっとも活用されるコンテンツの種類として「事例・ケーススタディ」が第1位だったとい う米国の調査結果もある。
(5)購入(商品を購入してもらう)
この「購入してもらう」という目的は、たった一度だけの購入を意味しているものではない。優良顧客、リピーターへと育成するために、動画を通した継 続的な情報提供を指している。動画コンテンツ内容としては、FAQ、取扱説明、アップデート情報、新商品ローンチなどがこれに該当する。実はこれらの動画 は購入前の見込み顧客に接触させても、充実したアフターフォローが用意されているという安心感を与える効果もある。
広がる動画コンテンツ活用シーン
このように目的別に制作したさまざまな動画コンテンツは自社サイトに掲載するだけではもったいない。動画資産を生かせるシーンは多い。
例えばリスティング広告などからの遷移先となるランディングページでは、ページ訪問者の関心を瞬時に引く必要がある。ファーストビューに動画を置けば、訪問者の目を引き、興味喚起や理解促進を図ることができるだろう。
見込み顧客/既存顧客のメールアドレスを獲得したら、メールマガジンなどに動画を加えるのも効果的だ。動画メールは開封率やコンバージョン率が上がるという調査結果もある。
また既存顧客との長期的な関係を構築するには、YouTubeチャンネルも活用したい。チャンネル登録してもらえば、新しいコンテンツにアクセスしやすいというメリットがあり、定期的に動画をアップロードする形でコミュニケーションを図っていける。
その他オフラインでも、営業ツールや展示会集客、店頭POP、動画パンフレットなど、その活用領域はどんどん広がっている。
もちろん、動画コンテンツは広告としても活用できる。かつてオンライン動画広告といえばYouTubeのTrueViewが大半だったが、今や Facebook、Instagram、Twitterなどのソーシャルメディア、DSPを経由した配信、モバイルアプリ、屋外広告なども動画広告に対応 し始めている。つまり、選択肢が増えているからこそ、広告配信メディアの選定も動画マーケティングの成否を左右する重要なポイントになっているのだ。
各メディアの主なユーザー層やターゲティング機能、動画広告の表示方法、課金方法などの特性を正しく理解し、費用対効果の高い広告運用を目指したい。
配信面に適したクリエイティブとは
ところで、しばしば「テレビCMをそのままオンライン動画広告として出稿して良いのか」という質問を受ける。その答えを出すには、そのメディアに対する視聴者の態度がヒントになるだろう。
テレビCMは番組の合間に15~30秒の広告が複数本並ぶ形で強制視聴される。視聴者は受け身の姿勢で見るため、短い尺の中でいかに印象を残すかが 勝負だ。一方TrueViewのようなインストリーム動画広告の場合、長さが無制限で、視聴者は5秒経過した時点でそのまま視聴するかスキップするかを選 択できる。すなわち冒頭で「もっと視聴したい」と思わせる工夫がカギとなる。
ではFacebookやTwitterはどうだろうか。これらソーシャルメディアでは、ユーザーが日頃目にしているフィード内に広告が配信されるた め、そのメディアのトーン&マナーに合わせれば比較的好意的に受け入れられやすいと言われている。一方で自動再生や無音再生なども考慮する必要が ある。
効果指標データを生かしてPDCAを
最後に、動画コンテンツの「成果」の捉え方を2つの視点で考えてみよう。
1つは動画自体への反応だ。YouTubeに限らず、Facebookなどのソーシャルメディアでも動画をアップロードすれば、効果測定機能を使う ことができる。再生数だけでなく、再生維持率(再生時間)、離脱ポイント、視聴者の性別や年代に関するデータなどを収集でき、どれだけ動画がターゲット層 に届いたか、最後まで視聴されているのか早々に離脱しているのか、などを把握できる。これらは、以降のクリエイティブを企画していく上で非常に有効なデー タとなる。
もう1つはマーケティング施策全体への寄与度だ。獲得を目的とした動画ならランディングページのPV数やコンバージョン率、バイラルを狙ったのであ れば再生回数だけでなくソーシャルメディアでの反応などの波及効果を見ていく必要があるだろう。顧客育成ステージにおいては、YouTubeチャンネルの 登録者数やFacebookページのファン数なども追っていきたい。
動画コンテンツを制作すると、どうしても再生回数に目が行きがちだ。しかし前半で述べたように動画の目的が明確になっていれば、再生回数を稼ぐこと がゴールではないことは明らかだ。効果計測機能を駆使し、PDCAを繰り返していくことが動画マーケティングの成功に不可欠であることを忘れないでほし い。