中韓家電が“侵攻”ブランド“信仰”心変わり

【ドラマ・企業攻防】
 日本の家電市場に海外メーカーが“侵攻”している。サムスン電子、LG電子の韓国2大メーカーがスマートフォン(高機能携帯電話)や液晶テレビで攻勢をかけるほか、中国のハイアールは低価格帯の白物家電を本格展開。欧米勢のデザイン性の高い家電も人気だ。“ブランド信仰”で、迷わず日本メーカーの製品を選んできた日本の消費者の心も揺れている。
き ■海外市場で圧倒
 世界の家電市場を韓国・中国メーカーがリードするのは統計をみれば一目瞭然だ。昨年の薄型テレビの世界シェア(市場占有率)は1位がサムスン、2位がLG。特にアジア、中東では日本企業を圧倒する。
 一方、白物家電の“世界王者”は中国最大手のハイアールだ。英調査会社、ユーロモニター・インターナショナルがまとめた昨年の主要な白物家電のメーカー別シェアで2年連続1位を獲得した。
 だが、この3社をもってしても突き破ることのできなかったのが日本市場の壁だ。日本の消費者はブランドイメージや知名度を重んじるうえ、メーカー間の競争も世界一激しい。各社とも過去に撤退や事業の伸び悩みなどの憂き目にあってきた。
 今、その風向きが代わろうとしている。その代表がサムスン電子のスマートフォン「ギャラクシーS」だ。昨年6月の販売から7カ月足らずで世界販売台数1000万台を突破。日本のスマートフォン市場でもサムスンはシャープ、アップルと並ぶ首位グループに食い込んだ。
 また、LG電子は昨年11月、高機能型の液晶テレビ「インフィニア」を発売。12月のメーカー別シェアは0.3%と苦戦したものの、同社は「日本市場では高級品を出してブランドイメージを上げることが必要」(幹部)と意に介さない。「5年以内に5%」を目標に、長期戦の構えをみせる。
 ■主戦場に殴り込み
 02年に三洋電機と提携して日本市場に進出したハイアール。日本メーカーとの激突を避け、小型の冷蔵庫や洗濯機など低価格帯で販売を伸ばし、小型冷蔵庫(容量100リットル未満)ではシェアが5割を超えた。今春には高機能で価格を抑えたドラム式洗濯乾燥機を市場投入する予定だ。エアコンや大型冷蔵庫も展開する考えで、日本メーカーの主戦場に本格参戦する。
 「若者は日本製だからというこだわりは少ない」(家電販売店関係者)。販売の最前線では消費者意識に変化が生じつつある。「機能性とブランドは依然日本メーカーが強い」(アナリスト)という指摘はなお多いが、世界で日本メーカーを圧倒する中韓勢の猛攻に、日本の消費者が“陥落”する可能性がないとは言い切れない。
 ■欧米勢も成功続々
 欧米メーカーは、中韓勢とは違った戦略から日本市場攻略を狙う。
 「成功モデル」ともいえるのが英ダイソンのサイクロン式掃除機だ。紙パック不要で「吸引力が落ちない」をうたい文句に、日本市場でも長らくサイクロン式掃除機のトップシェアの座を守った。
 昨年は、平たい円盤が自ら部屋を動き回る米アイロボットの自動掃除機「ルンバ」(市場価格4万8800円から)がヒットした。販売代理店によると、04年の日本発売から10万台達成に約6年を要したが、09年9月から昨年10月の1年強で20万台を達成したという。口コミで認知と人気が高まった。
 にわかに注目が高まっているのがスウェーデン発の空気清浄機「ブルーエア」だ。高性能のフィルター技術を活用しているのが特徴で、本体価格(5万4600円から)に加えて、半年に一度交換するフィルターも6300円からと維持費が高いが、「日本の消費者は価値のあるものにはお金を惜しまない」(代理店)と自信満々だ。
 デザイン性の高さ、斬新さが欧米家電の武器だ。米アップルのiPhoneやiPadは論ずるまでもないが、サイクロン掃除機に続くダイソンの羽根のない扇風機や仏ティファールの電気ケトル、伊デロンギのエスプレッソメーカーなどは「出しっぱなしでもサマになる」(量販店)と主婦層を中心に支持を広げる。
 価格競争力で攻め入る中・韓勢と、独創的な商品開発力で市場を切り開く欧米勢。収益力で日本メーカーを凌駕したサムスンの李健煕会長は先月、「中身で日本に追いつくにはまだ多くの時間が必要だ。学ぶべきことは多い」と語ったといい、日本メーカーはなお技術力では優位性を保つ。だが、それだけでは海外市場に続き、独占状態だった国内市場の牙城も危うくなりそうだ。(古川有希)

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