中高年のバイク事故死者増加 リターンライダーの“過信”

交通事故の死亡者数が年々減少を続ける中、中高年のバイク事故死者が増えている。背景にあるのは、青春時代を思い出し、再びバイクにまたがる「リターンライダー」の増加だ。体力やバイクの性能の変化に感覚が追いつかず、単純な操作ミスなどで命を落とすケースが後を絶たない。危機感を強める警視庁と神奈川、埼玉、千葉の3県警は23日、初めて合同の安全教室を開き、注意を促した。(加藤園子)
 「正しい操作と技術を再確認してください」。警視庁の女性白バイ隊員が呼びかける。23日、東京都世田谷区の警視庁交通安全教育センターに集まったのは、40歳以上の中高年ライダーを中心とした86人。ハンドルの握り方やつま先の向きなど乗車の基本操作を確認した後、スラローム走行や板の上を走るバランス走行を繰り返した。
 参加したさいたま市の私立幼稚園経営、龍崎悦子さん(49)もリターンライダーの一人。「膝が開いていると指導されて初めて気がついた。自分ではできているつもりだったけど、忘れていることだらけでした」と話した。
 警察庁のまとめによると、昨年1年間の交通事故の死者数は4373人で、13年連続で減少したが、40~59歳のバイク事故の死者数は170人で、10年前の約2倍。今年も11月末までで165人と、昨年の同時期と比べて17人増えた。
 バイク人気が高かった昭和50年代に青春時代を過ごしたこの世代。警察当局は、「若い頃に二輪免許を取得しながらバイクに乗らなくなり、年を取って生活に余裕が出てきたのを機に、再び乗り始めるリターンライダーが増えたことが一因」と分析する。
 日本自動車工業会によると、ミニバイクを含む二輪車の販売台数は約5年前から回復基調にあり、平成21年に約43万3千台、23年に約44万5千台、25年は約46万台。25年の新車購入者の平均年齢は51歳で40~50代が全体の47%を占めている。
 警視庁などが講習会で特に注意を促したのは「若かりし頃とのギャップ」だ。交通総務課によると、中高年のバイク事故はカーブでの転倒や側壁への衝突など単純な操作ミスによる単独事故が約4割を占めている。同課の担当者は「年を取って集中力や体力が低下しているため、知らず知らずのうちに注意散漫になりやすい」と指摘。「バイクの性能も格段に良くなっていて、アクセルを回しすぎたりカーブで体重移動しすぎたりしてバランスを崩すことが多い」と分析する。
 11月、18年ぶりにバイクに乗り始めた横浜市の会社員、横溝幸一さん(49)は体力的な衰えを痛感している。「後輪が少し滑っても、若い頃は体がすぐ反応してバランスを取り戻せていたが、今はそれができず、ヒヤッとすることがしょっちゅうある」と話す。それでも夢は、若い頃以来の北海道ツーリング。「乗ると若い頃の感覚を思い出すけれど、しばらくはリハビリ期間。ゆっくり走って安全運転を身につけたい」と語った。

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