中高年引きこもり、課題深刻=推計61万人、支援なく-専門家「SOS逃さず対応を」

川崎市多摩区で児童ら19人を殺傷し自殺した岩崎隆一容疑者(51)は、長期間定職に就かず引きこもり状態で、高齢の伯父夫婦の支援で生活していた。

 市は伯父らから相談を受けていたが、内容は介護が中心で、岩崎容疑者本人への面談や支援は行われなかった。

 内閣府は昨年、中高年(40~64歳)の引きこもり実態調査を初めて実施。3月に公表した結果では、定職がなくほとんど外出しない「引きこもり状態」の中高年は全国に推計61万3000人おり、その半数が5年以上の長期にわたっていた。

 引きこもりの子と養う親がともに高齢化し、生活が行き詰まることは、それぞれの年齢から「8050問題」と呼ばれている。実態が見過ごされてきた上、人数は内閣府の別調査で推計された15~39歳の引きこもり数(約54万人)を上回っており、問題は深刻だ。

 引きこもり問題に詳しい愛知教育大の川北稔准教授は「未婚無職の子が親の年金に頼り切り、共倒れになる。支援は難しく、行政の体制も不十分だ」と警鐘を鳴らす。

 川北准教授によると、行政の想定は就職に失敗して引きこもった若者のようなケースで、対応は就労支援が中心。就職先の乏しい中高年には適さず、さらに担当部署が青少年部局にあるため、中高年は門前払いの自治体すらあるという。

 認知の難しさも課題だ。親が子育ての責任を感じて隠したり、健康を過信して相談しなかったりする家庭は多く、最悪の場合、親子とも孤立死したり、子が親の遺体を放置したりしてようやく発覚することもある。内閣府の調査では「誰にも相談しない」が全体の約45%に上った。

 川北准教授は「介護などで追い込まれて、ようやく助けを求めてきたときこそ、問題解決の最大のチャンスだ。相談を通じて家庭の状況を全て把握して、関連部局が横断で取り組むことが重要」と指摘。ワンストップ窓口を設けて成功した自治体などもあるという。

 その上で、居場所作りや長期の訪問など柔軟な支援の重要性を強調。「孤立させないことが必要な支援で、仕事以外の社会の接点を増やす施策が大切だ」と話した。 

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