中高年男性「プラモデル」に再び熱中、質向上で作りやすく

子供の頃に親しんだプラモデル作りを再び始める男性が増えている。その中心がシニア層と、一歩手前の中高年。プラモデルの質の向上に加え、精神的ゆとりがきっかけになっているようだ。(日野稚子)
 ◆最高齢は88歳
 接着剤がはみ出した部品を磨いたり、塗装の出来具合をチェックしたり…。横浜市港北区の「タミヤプラモデルファクトリー トレッサ横浜店」の工作スペースでの光景だ。
 工作スペースの利用料は30分257円からで、4時間以上は2057円(有料会員1028円)。黙々と続く作業が一段落したら、取り組み中のプラモデルを見せ合い、談笑が始まる。外車のプラモデルを楽しむ神奈川県茅ケ崎市の高橋敏さん(61)は「同じ趣味を持つ異業種の人と気兼ねなく好きな話をして交流できる」。
 昭和33年頃、国産初のプラモデルが発売されると、国内メーカーが相次いで参入した。町の専門店でプラモデルキットを購入し、組み立てや塗装に悪戦苦闘した経験を持つのも中高年。東京都目黒区の加藤一秀さん(47)は「社会に出て、家族を持ったらプラモデル作りをやめていた。子供も大きくなって自分の趣味に『出戻り』する。僕もその一人」と笑う。
 プロモデラーでプラモデル作りの講習会の講師も務める長谷川伸二さんによると、受講者の最高齢は88歳の男性。かつて戦艦大和のプラモデルに挑戦したが、完成に至らなかったという。長谷川さんは「(男性は)新しく発売された戦艦大和を作りたいと、半年かかって講座で製作した」と話す。
 ◆大人のたしなみ
 東京・新宿の「模型ファクトリー」も手ぶらでも模型製作ができる貸しスペースが併設されている。店員はプロモデラーで、相談しやすい環境を整えた。利用者の約3割が中高年・シニア層の男性で、運営会社、ライデンシャフトの有馬律雄さんは「プラモデルはものづくりの楽しみを実感できる。大人のたしなみとして根付いてくれれば」。
 プラモデル雑誌の発行人も務めた長谷川さんはシニア層がプラモデルに出戻る心理について、「プラモデルキットそのものが精巧になり、ストレスなく作れる環境になっている。いい年になった大人が始めるのだから趣味で挫折はしたくない、楽しみたいとの思いもあるからでは」と分析している。
 ■愛好歴は50年超え 石坂浩二さん
 俳優の石坂浩二さん(72)もプラモデル愛好家「モデラー」の一人で、同好会「ろうがんず」を立ち上げ、老眼モデラーと交流を続けている。6年目の今秋には横浜市内でコンテストを開くという。プラモデルへの思いを語ってもらった。
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 子供時代、プラモデルは高価でね。木を削って模型作りをしていたが、芝居に熱心になって中断。再開後からのプラモデル歴は50年は超えました。作るのは飛行機で、第二次世界大戦中の欧州機が好き。接着工程は急ぐと部品が後から取れることもあるから、きりのいいところまで毎日少しずつ作っています。昔と比べ精密になり、細部の再現力が上がり、飽きがこない。1人で全部やれるから、自分でいいと思うようにやればいいのも魅力だと思う。
 プラモデルを趣味にしてきたことで、気づかぬうちに仕事にも役立ち、仲間ができた。1人でやるものとは言ったが、長年やっていると、同好の士が必要と感じ、ろうがんずの発起人になった。情報交換が主で、プラモデルキットへの愚痴が多いんですけど、それも楽しみです。
 コンテストを企画したのはプラモデルを話題にしてほしいから。これからは長寿社会で、女性は夫がいなくても何らかのつながりがあるが、男性は会社を抜けたら1人になる。共通言語で仲間と話せる趣味は必要で、そんな潤いがないと元気でいられない。プラモデルだったら製作中のワクワク感も得られる。昔と比べ、塗料のにおいも薄くなり、水性塗料を選べば溶剤臭もない。だから、女性には夫がやり始めたら止めずに喜んであげてもらいたい。プラモデルメーカーも、シニアや「出戻り組」向けにパーツが少なく組みやすい製品を開発してほしいですね。

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