70歳以上の横浜市民が一定額を支払うと市内のバスや地下鉄などが乗り放題になる敬老パス。利用者の増加で事業費が膨らみ、見直しの議論が進んでいる。近く検討結果がまとまる見通しだ。(吉野慶祐)
敬老パスの利用者は増加の一途をたどる。横浜市で制度が始まった1974年度は7万人弱だったが、2018年度は40万4千人。25年度には45万2千人に達するとみられる。
現在は利用者1人あたりの月間のバス乗車回数を15回と想定し、市がバス事業者に助成金を払っている。ところが、市が利用者約17万人から回答を得たアンケートによると、乗車回数は月25回。バス事業者が乗車実績に見合う助成金を受け取っていない状況が浮き彫りになった。市が払う助成金は今年度約99億円だが、仮に乗車回数を月25回に見直すと、21年度には約186億円に膨らむという。
市の諮問を受け、専門分科会(委員長=山崎泰彦・県立保健福祉大名誉教授)が6月に制度見直しの議論を開始。これまで5度の協議で、県バス協会代表の委員は「業界は運転者不足。ドル箱路線でも減便している」「(助成金の算出根拠となる運賃単価や利用回数が)納得できるものではない」などと苦境を訴えた。
敬老パスはお得だ。アンケートに基づく平均利用回数(月にバス25回、地下鉄7回、シーサイドライン0・8回)に、標準的な区間料金を掛けると年9万8千円になるが、多くの利用者は年4千円以下の自己負担でパスを入手している。
「現行は夢のようなパス。でもそれでは続かない」と分科会委員の一人はいう。制度見直しが必要なことは各委員が共有するが、どう見直すかの各論では様々な意見がある。
交付年齢の75歳への引き上げを求める声もあれば、「70歳が妥当」との声も。一定以上の収入のある人を対象から外す案には「(住民税非課税の)低所得者が利用者の64%を占める中、意味があるのか」と否定的な声が出た。一方、毎月の利用回数に上限を設ける案には複数の委員が賛意を示した。市は利用者負担を3割増やす試算を示した。
パスのICカード化も議題に上った。現在は紙製のため、正確な利用回数や経路などのデータが取れない。巨額の公費が投じられている制度ではあるが、利用実績と医療費の関係の分析などもできず、高齢者支援制度としてどの程度有効なのかが、データで示されていないのが実情だ。
IC化は費用面から見送られてきた経緯がある。市の試算では約56億円かかる。ただ、市によると、同様の制度のある全国の大都市ではIC化が進み、紙は少数派という。都市交通計画が専門の中村文彦・横浜国立大副学長は「財源が限られる中、誰をどれくらい支援するかを考えるうえで、市民が納得できるデータが必要。IC化は急務だ」と指摘する。
分科会は18日に答申をまとめる。市は必要な条例改正などを行い、早ければ21年度から新制度を始める。