九州に半導体「サイエンスパーク」、三井不動産や自治体動く

TSMCが進出した熊本県菊陽町は半導体産業集積の中心地となった(出所:三井不動産)

TSMCが進出した熊本県菊陽町は半導体産業集積の中心地となった(出所:三井不動産)

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 台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出をきっかけに、九州に「サイエンスパーク」を整備する構想が浮上している。台湾のサイエンスパーク(科学園区)に倣い、日本や台湾の半導体関連企業や研究機関が集積する拠点にする。台湾当局や九州の自治体、三井不動産がそれぞれ検討を始めており、日本政府を巻き込んだ動きとなる可能性もある。

 構想が明るみになったのは2024年5月末。台湾で同月発足した頼清徳(ライ・チンドォー)政権のもと日本の経済産業大臣にあたる経済部長に就任した郭智輝氏が記者会見で、台湾の半導体関連企業などが集まるパーク(工業区)を九州に整備する構想を示した。台湾企業が九州に進出し、TSMC熊本工場や日本メーカーの半導体工場向けの部材供給など、半導体製造のサプライチェーンに入ることを経済部が支援していく。

 歩調を合わせるかのように日本では6月上旬、九州地方知事会と地元経済界から成る九州地域戦略会議が半導体工場や研究機関が集まるサイエンスパークを九州の複数地域に設ける構想を打ち出した。2040年に向けた九州の半導体産業振興のグランドデザインをまとめ、その中で言及した。経済産業省の九州経済産業局、経済団体の九州経済連合会、大学などとの連絡会を7月に発足させており、国の政策への反映や支援を求めていく。

 8月下旬には熊本県の木村敬知事がTSMC本社や台湾経済部を訪れ、郭氏と面会。熊本版サイエンスパーク構想の議論も交わしたと報じられている。

 

九州全域で半導体関連の工場建設が相次いでいる(出所:日経クロステック)

九州全域で半導体関連の工場建設が相次いでいる(出所:日経クロステック)

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 民間も動き始めた。三井不動産は7月下旬、日本型サイエンスパークの検討に向けて台湾の陽明交通大学、工業技術研究院(ITRI)とそれぞれ連携すると発表した。まずは熊本県をはじめ、九州におけるサイエンスパークに関する検討をITRIと始めた。

 三井不動産ソリューションパートナー本部事業開発部長の須永尚氏は「サイエンスパーク構想は街づくりの側面を持つ。工場の誘致だけでなく、産学官連携を通じた人材育成や研究開発、企業活動のエコシステムづくりや、住宅・商業施設など生活基盤の整備も想定される」と話す。台湾の産業構造を分析しながら日本におけるサイエンスパークのあり方を探り、自治体や民間企業によるサイエンスパーク構想の支援につなげる。

TSMCの熊本県への経済波及効果11兆1920億円、10年間で推計…第2工場織り込み上方修正

九州フィナンシャルグループ(FG)は5日、台湾積体電路製造(TSMC)の進出による熊本県への経済波及効果が、2022~31年の10年間で11兆1920億円に上るとの推計を発表した。新たに建設が決まった第2工場の効果を織り込むことで、昨年8月の前回推計値(6兆8518億円)から大幅に上方修正した。

 TSMCは熊本県菊陽町で年内に半導体の量産を始める予定の第1工場の隣接地に第2工場を新設し、27年の完成を目指す計画を明らかにしている。

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 試算には、TSMCの第1、第2工場だけでなく、工場の新設や増設の計画を発表したソニーグループや三菱電機などの動きも含めた。部品発注など、半導体生産に伴う波及効果は7兆5343億円に上り、前回から82・0%増加すると見積もった。生産に加え、土地の造成など、設備投資に伴う波及効果も、34・9%増の3兆6577億円に上ると試算した。このうち2兆円超が、第2工場の建設などが本格化する25~27年の3年間に集中すると見込んだ。

 企業進出や投資は10年間で171社に上るとした。既に海外の企業だけで約70社が、県内に事務所を置くなどの動きがあるという。

 推計では、これらの波及効果が県内の総生産を1割以上、押し上げるとしている。県内の雇用者1人当たりの報酬額に換算すると、年間38万円のプラスになるとの見通しを示した。

 九州FGの笠原慶久社長は同日の記者会見で、取引先の一部がTSMCのサプライチェーン(供給網)に参画することが決まったことを明らかにした。その上で、「県内の企業がサプライチェーンに入れば入るほど、経済波及効果は大きくなる。しっかり応援していきたい」と述べた。

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