乾杯はビールでなく日本酒で! 条例制定広がる 酒どころの京都・伏見や兵庫・西宮など

「乾杯は日本酒で」という条例を制定する動きが、酒蔵のある自治体を中心に広がっている。日本酒離れに歯止めがかからない中、地場産業のPRや消費拡大を図るのが狙いだ。全国に先駆けて条例を施行した京都市では、酒造組合が提供する乾杯用の日本酒の消費が倍増し、早くも効果があらわれ始めた。自治体側も酒蔵見学ツアーを企画するなどして観光客を呼び込もうと知恵を絞っている。
ビールで乾杯したら罰則…は、ありません
 伏見を中心に30近い酒蔵がある京都市は1月、「清酒の普及の促進に関する条例」を施行。条例は日本酒による乾杯を広めることが目的で、事業者や市民に協力を求めているが、ビールで乾杯しても罰則はない。伝統産業課の担当者は「産業団体の懇親会では施行後、日本酒で乾杯する機会が格段に増えた」と話す。
 京都市内のホテルと提携し、宴会などに乾杯用の日本酒を無償で提供する取り組みを続けている伏見酒造組合は6月までに、例年の倍にあたる4合瓶換算で3千本を提供。同組合は「日本酒好きの人なら、2杯目も頼んでもらえるかもしれない」と期待を寄せる。市は秋に「日本酒サミット」を開催する予定で、日本酒以外の特産品のPRにもつなげたいとしている。
 京都市の取り組みをきっかけに条例制定の動きは全国に広がる。
 灘五郷の一角、西宮郷と今津郷を抱える兵庫県西宮市は7月、市議会で日本酒による乾杯の習慣を広めることなどを盛り込んだ条例案を可決。「日本酒の日」(10月1日)に施行する。
 市はすでに、酒造会社や商工会議所と「日本酒振興連絡会」を結成。日本酒を切り口にしたまち歩きイベントを開催するほか、ポスターやステッカーによる情報発信を進め、飲食店なども巻き込んで日本酒ファンの裾野を広げようともくろむ。観光振興課は「乾杯の場では、職員は率先して日本酒で乾杯する。市民のみなさんにも、会合やイベントでの協力をお願いしたい」と意気込んでいる。
 日本酒の原料として使われる酒米「山田錦(やまだにしき)」の産地、兵庫県加東市も6月に条例を定めた。条文では「日本一の酒米『山田錦』や『愛山(あいやま)』で醸造された日本酒」による乾杯を推進するとうたい、「農家の酒米生産意欲の向上」に言及しているのが特徴的だ。
 こうした動きの背景にあるのは日本酒離れだ。国税庁によると、清酒(日本酒)の販売量は最盛期の昭和50年度には168万キロリットルだったが、平成23年度には約3分の1の60万キロリットルに落ち込んだ。西宮市では、近年の生産量はピーク時の2割程度という。
 条例制定の動きは、日本酒の産地にとどまらない。鹿児島県いちき串木野市や宮崎県では、焼酎での乾杯を後押しする条例が成立。いちき串木野市食のまち推進課は「ポスターを作って条例制定を周知し、酒蔵をめぐるイベントも企画したい」と観光振興を目指す。こうしたブームは他の酒どころにも波及しそうだ。

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