今回は23日付け朝日新聞紙面の4面(総合)の紙面構成について、メディアリテラシーしましょう。
今回のはメディアリテラシー的にはなかなか見事な事例なのであります。
教科書に乗せても良いようなメディアによる印象操作の好例であります。
では朝日のふたつの記事の紡ぎ方(つむぎかた)をトレースいたしましょう。
ふたつの記事をうまくまず仕込みます。紡ぐのはその後です。
まずひとつは22日夜の衆院本会議で、24日までの会期を9月27日まで延長することを与党などの賛成多数で議決した件です。
(参考記事)
【産経新聞記事】
9月27日までの会期延長を議決 首相、安保法案の今国会成立期す
9月27日までの会期延長を議決 首相、安保法案の今国会成立期す(1/2ページ)国会は22日夜の衆院本会議で、24日までの会期を9月27日まで延長することを与党などの賛成多数で議決した。通常国会での95日間の延長は、昭和56年12月に鈴…
上記産経記事などによれば、安倍晋三首相は議決後、国会内で記者団に概ね次のように発言しています。
安倍晋三首相は議決後、国会内で記者団に「最大の延長幅を取って徹底的に議論していきたい」と強調。「最終的には決めるべきときに決める」とも述べ、改めて今国会での法案成立に決意を示した。
「最大の延長幅を取って徹底的に議論していきたい」「最終的には決めるべきときに決める」、戦後最長の95日間の延長を議決した理由として、徹底的議論とそしてこの国会で法案を通すんだという覚悟を示してるわけですね。
※ポイント1
細かいことですが、ここで安倍首相は「丁寧な審議」とは強調していません、というか議決後の国会内記者会見では「丁寧な審議」という言葉は使っていません。
で、同じ件で朝日新聞は後で記事を紡(つむ)ぐためにプチっと記事タイトルを操作しちゃいます。
【朝日新聞記事1】
首相、「丁寧な審議」強調 対維新・参院に不安 国会延長
2015年6月23日05時00分
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11820826.html
記者会見で安倍首相は「丁寧な審議」を強調などしていないのですが、朝日は姑息(?)にも国会延長決議前の公明党の山口那津男代表と会談した際の安倍首相の発言を「流用」しているわけです。
「『丁寧に議論せよ』という声に耳を傾け、戦後最長となる審議時間を取り、じっくり議論する意思を国民に示して理解を得たい」。安倍晋三首相は22日午後、公明党の山口那津男代表と会談した際、大幅延長の理由をこう説明した。
しかもこれですね、安倍首相の直の発言ではなくて谷垣幹事長記者会見からの抜粋なんですね、朝日記事は一言も触れてませんがこれって又聞き(苦笑)ですね。
自民党公式サイトから谷垣禎一幹事長の当該発言部分を抜粋(太線は当ブログが強調)。
【谷垣禎一幹事長発言】
本日、与党の党首会談を開いていただきまして、今、会期延長の幅を決めていただきました。まず安倍総理からは、戦後以来の大改革を行う「改革断行国会」としてやってきて、公明党にも大変ご尽力をいただいた。特に平和安全法制については、丁寧に議論せよという声に耳を傾けながら9月27日(日)までの会期をお願いしたい。戦後最長となるが、審議時間をとってしっかり議論するとの意思を国民に示して、国民の理解を得ていきたいのでよろしくお願いするというご発言でした。
山口公明党代表からは、十分な質疑時間を確保し、国民の理解を得て今国会での成立を図るべく、そのためにも大幅延長したいという強い意志を示されたので、しっかり協力していきたいということでした。
したがいまして、与党としては9月27日(日)まで、95日間の会期延長をこれからお願いしていくということになるわけでございます。なお、 もう一つ申し上げますと、この9月27日(日)までということになりますと、会期延長としては戦後最大ということになるということでございます。しっかり 国民の理解を得られるような審議を重ねてまいりたいと思っております。
谷垣幹事長・井上公明党幹事長 ぶら下がり記者会見(与党党首会談終了後) | 記者会見 | ニュース | 自由民主党【冒頭発言】 (谷垣幹事長): 本日、与党の党首会談を開いていただきまして、今、会期延長の幅を決めていただきました。まず安倍総理からは、戦後以来の大改革を行う「改革断行国会」としてやってきて、公明党に...
さて、こうして国会延長の決議後の記者会見で、安倍首相は一言も「丁寧な審議」などと発言していないにもかかわらず、「首相、『丁寧な審議』強調対維新・参院に不安国会延長」なるタイトルの【朝日新聞記事1】が出来上がりました。
次の仕込みは朝日新聞の世論調査記事です。
安倍内閣の支持率が39%に下落した世論調査結果が出ています。
【朝日新聞一面記事】
内閣支持率39%に下落 朝日新聞世論調査
2015年6月22日21時57分
http://www.asahi.com/articles/ASH6Q4W40H6QUZPS003.html
上記記事は紙面一面に掲載されているのですが、この世論調査では内閣支持率を含め全部で16の項目を調査しています。
世論調査―質問と回答〈6月20、21日実施〉
2015年6月22日21時58分
http://www.asahi.com/articles/ASH6Q5JM2H6QUZPS005.html
で、12番目の質問がこちら。
◆安倍首相の安全保障関連法案についての国民への説明は、丁寧だと思いますか。丁寧ではないと思いますか。
丁寧だ 12 丁寧ではない 69
で、同じ世論調査記事で朝日新聞は後で記事を紡(つむ)ぐためにプチっと記事タイトルを操作しちゃいます。
【朝日新聞記事2】
「丁寧ではない」69%安保法案、首相の説明朝日新聞社世論調査
2015年6月23日05時00分
http://www.asahi.com/articles/DA3S11820824.html
内閣支持率でも政党支持率でも安保法制の賛否でもなく、優先順位が高いとも思えない12番目の質問をタイトルに持っていくわけです。
さて仕込み完了です。
「丁寧な審議」をキーワードにして2つの記事が出来上がりました。
【朝日新聞記事1】
首相、「丁寧な審議」強調 対維新・参院に不安 国会延長
2015年6月23日05時00分
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11820826.html
【朝日新聞記事2】
「丁寧ではない」69% 安保法案、首相の説明 朝日新聞社世論調査
2015年6月23日05時00分
http://www.asahi.com/articles/DA3S11820824.html
そして23日付け総合4面にて、堂々とこの二つの記事を紡ぐのであります。
読者の皆さんのために当該紙面をスキャンいたしました、こんな感じ。
■2015年6月23日付け朝日新聞総合4面(東京本社14版)
どうでしょ?
見事な二つの記事の紡ぎ方ではないですか。
読者はまず右上の【朝日新聞記事1】で、国会会期を95日延長した安倍首相が「丁寧な審議」を「強調」していることを知ります。
そして左下の【朝日新聞記事2】に目を転じれば、なんと国民の69%が安倍首相の説明が「丁寧ではない」とダメ出ししていることを知るのです。
お見事です。
国会を95日延長して「丁寧な審議」をこころがけるぞ!(安倍首相)
あんたの説明、ちっとも丁寧じゃありませんから(国民)
まるで売れない芸人のコントのような間抜けな図式の出来上がりです。
お見事です。
・・・
別に今回のこのエントリーは、朝日新聞を批判しようという意図はありません。
日本の新聞では、ときに朝日新聞だけでなく読売にしろ産経にしろ、このような複数の記事を組み合わせて並べることにより、読者をある考え方に誘導しようとする試み(一種の印象操作)は、どこでも見られることです。
そしてこの朝日の紙面構成はメディアリテラシーとして「複数の記事を組み合わせて並べることにより、読者をある考え方に誘導しようとする試み」のかっこうの教材になりうるのであります。
私たち読者はこのような試みも味わいつつ、メディアの意図を正しく汲み取る、すなわちメディアをリテラシーする能力がますます必要になるのであります。
ふう。
(木走まさみず)