二目で退職した男

 今年も新人が入って来た。名前は平賀という。今年26歳、新卒ではなく中途採用である。以前は某日刊自動車新聞にいたそうである。ちょっとキザっぽいやつだが、新人が入ってくるとちょっとうれしい。
 が、しかし、仕事が始まると彼は一人取り残されていた。なぜかと言うと、この会社では、新人教育と言うものはなく、足手まといになるから誰も相手にしない。新人の教育をしているのなら、その時間を自分の仕事に費やして少しでも売上を延ばさないとならないのである。困った風習だ。新人を伸ばす気がない、したがって、いつまでたっても仕事の領域は変わらないので、最低限の自分の売上は確保できるのである。
 しかし、年々ノルマは上がってくるが新人を育ててないので、仕事を引き継ぐことはできない。だから、負担が増える。それで、新人を見ている時間が取れない。この連鎖がいつまで続くのか、第三者が見たらきっと笑ってると思う。
 そんなことで、彼が入社して二日目。退職したい旨を千田部長に告げたのである。その理由がなかなか悲しくなるものだった。この会社を受けたときほかの会社も受けていて、そちらから昨日合格の知らせがあったそうで、そっちのほうが第一希望だったから、ということである。
 第一希望の会社とはどんな会社だったんだろう。聞いてみると、医療器具の小さな販売会社ということで、ちょっとびっくりした。彼にはそちらのほうが魅力的だったんだろう。
 それにしてもである。
 一応、入社して会社のムードとか内容とかが分かっている会社よりも、まだ入社していない会社を天秤にかけ、そっちの会社の方がいいと判断された会社、そう、わたしが勤務しているこの会社、会社の外にいる人は、そういう判断をするのだろうか?。
 なんとなくさみしいような、辛いような、考え直さないとならないぞ、この会社、と声を大にして言いたいが、私の会社じゃないのでどうでもいい。この社長だからどうでもいいと、投げやりな気分にさせる出来事だった。

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