ロンドンオリンピックが、いよいよ開幕した。
日本時間の7月28日午前5時(英国時間27日午後9時)から盛大に行われた開会式は世界中から注目を集めた。8月12日まで繰り広げられる数々の競技は、「世界最大のスポーツの祭典」の名に相応しい名勝負を生むことになりそうだ。
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オリンピックは、電機業界にとっても大きなイベントであり、テレビやレコーダーの売れ行きに大きな影響を及ぼす。それは、業界で「オリンピック商戦」という言葉が使われていることからも明らかだ。
だが、そのオリンピック商戦が今年は不振だ。
業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した2012年6月の薄型テレビの出荷台数は前年同月比81.3%減の55万7000台と、前年の約2割の販売数量にとどまっている。昨年7月の地上デジタル放送移行直前の駆け込み需要に沸いた前年実績を大きく下回る格好だ。
実際、量販店店頭のテレビ売り場は、人がまばらだ。なかにはテレビ売り場を縮小し、スマートフォンの売り場を拡張する動きも出ているほどである。
「オリンピックを大画面で楽しむ」という提案も、ここ1~2年の間にテレビを購入したばかりのユーザーには、まったく響かない。
だが、メーカー各社は、不振のテレビ売り場に向けた提案に知恵を絞っている。
テレビをはじめとするAV機器や、デジタルスチルカメラなどのオリンピックTOPスポンサーであり、この分野で唯一、「オリンピック」の名称を使ったキャンペーンを実施できるパナソニックは、「ロンドンオリンピックはスマートに楽しもう!」をテーマに、量販店店頭での販売促進活動を展開している。
初期に薄型テレビを購入したユーザーの買い換え需要や、家庭内での2台目以降の需要を促進。そして、テレビに比べて普及率が低いレコーダーの販売に力を入れている。
パナソニックでは、「最新テレビを購入することによって実現するスマート化だけでなく、これまで購入した薄型テレビに、最新のレコーダーを買い足すことで、スマートテレビとしての利用が可能になる。一歩進んだテレビ視聴の提案が鍵になる」と語る。
これを同社では、「スマートAVライフ」と呼び、機器間連携やネットワーク接続率を高めることで、新たな視聴環境を提示する考えだ。
ソニーはスピーカー、シャープは大画面テレビで勝負
ソニーでも、「テレビを売るだけの売り場づくりではなくて、テレビと何をつなげるか、という提案へと一気にシフトしなくてはならない」と前置きし、「薄型テレビの弱点は、薄型化、狭額縁化を図ったことで、その裏返しとして、スピーカーが犠牲になり、音質の面で課題が残っている点。これはソニーに限らず各社に共通したもの。薄型テレビの下に設置できるバースピーカーの提案によって、音質を楽しんでもらう提案をしていく」と、ひとつの切り口を示す。
量販店店頭でもテレビ売り場に隣接する形で、スピーカーシステムの売り場を設置し、実際に音を聞いて選べる環境を整えているのが現状だ。
すでにテレビを購入した人に対して、テレビにつながる商品群によって、付加価値提案をしていくという仕掛けだ。
量販店の販売支援を担当するソニーコンスーマセールスでは、主要拠点において、IT営業所とAV営業所を統合。テレビとレコーダー、タブレット端末、パソコンを連動した提案をするための体制構築にも乗り出している。こうした動きの成果も今後は期待される。
シャープは、液晶テレビの提案そのものに力を注ぐ姿勢をみせる。同社によると、現在、テレビ購入者の2~3割が、3年以内にテレビを購入した人だという。
その理由を次のように分析する。
「地デジへの移行にあわせて、テレビを慌てて購入したものの、画面が小さいことに気がついた。そこで、これまでリビングにおいていたテレビを別の部屋に移動させ、リビング用に大画面テレビを新たに購入するユーザーが多いためだろう」
実際、50型以上のテレビの販売台数は、前年同期比で約2割の減少に留まっているほか、60型では約3倍の販売台数へと拡大。大画面テレビの販売が好調であることを裏付ける結果となっている。
売り場では、60型や80型のテレビを積極的に展示。80型で3m、70型で2.5mと設定した最適な視聴距離を「感動ポジション」と名付け、床にその距離を示し、一般的なリビングにおいても、大画面テレビを導入できることを訴求している。
「最も説明しやすい製品」で善戦するLG電子
今回のオリンピック商戦で、善戦しているのがLG電子である。
LGエレクトロニクスジャパンが6月から順次投入している「LG Smart TV」は、同社によると、当初計画を大幅に上回る形で推移。とくに42型以上の販売構成比率が約5割に達しているという。
販売店から聞かれるのは、「最も説明しやすい製品がLG Smart TV」という声。「狭額縁のデザインが優れていること、マジックリモコンにより操作が簡単であること、LG独自の豊富なコンテンツを提供していること、軽量なメガネを利用するCINEMA 3Dが見やすいことなど、LGならではの特徴が多く、訴求材料に事欠かない」(ヨドバシカメラマルチメディアAkiba)。また、画質についても、「日本のユーザーが求める品質レベルを実現しており、その点でも安心して勧められる」とする。
このように、オリンピック商戦のテレビ売り場は、付加価値訴求型へとシフト。各社の戦略もその方向で一本化している。
薄型テレビの旺盛な需要期が終わり、従来の価格訴求型の販売から、付加価値を前面に打ち出した機能訴求が中心の売り場づくりへと転換しており、それがオリンピック商戦のキーワードとなっている。
「大画面テレビをドカンと売る『大砲型』ではなく、周辺機器やアクセサリ、小物製品を販売する『機関銃型』のビジネスがこれからの主流になる」(ソニー)という指摘は的を射ているだろう。
ただ、機関銃型では、やはり売り場の盛り上がりに欠けるのは当然のものといえる。
そうした売り場づくりのなかで、1つのバロメータとなるのが、ネットワーク接続率だといっていい。いかにつなげるかの提案が、周辺機器やサービスといった新たな収益源を生むことにつながるからだ。
現在、薄型テレビにおけるネットワーク接続率は15%程度と言われているが、ソニーの場合、40型以上のテレビでは、すでに約40%がネットワーク接続をしており、LGでは、LG Smart TV購入者の約7割がインターネットに接続しているという。
ネットワーク接続率をどこまで引き上げることができるかが、次のテレビビジネスにおいて、優位性を発揮できるかどうかにつながるともいえそうだ。
大河原克行(おおかわら かつゆき)フリーランスジャーナリスト1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、約20年にわたって、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、ビジネス誌、パソコン誌、Web媒体などで活躍。日経パソコン PCオンラインの「マイクロソフト・ウォッチング」の連載を担当。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)などがある。近著は「松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド戦略」(アスキー新書)。